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MULBE×MACKA-CHIN世代を超えた2人が証言する「渋谷・宇田川町~あの頃とその頃」

カルチャーをつなげる 生身のMULBEの普遍性

『LIFE GOES ON』MULBE×MACKA-CHIN「渋谷・宇田川町~あの頃とその頃」の画像5
cherry chill will.

――そんな宇田川町の文化を継承するMULBEさんの新作『LIFE GOES ON』についても教えてください。

MULBE 宇田川町イズムと言いますか、ヒップホップ濃度高めのコテコテの1stを2020年の12月にリリースしたんですけど、今回の2ndは自分が今まで書いたことのない曲、いろんな街に足を運び、全国で友達が増え、良いことも悪いことも含めて完成させたアルバムです。そこにはコロナ禍も重なってきて、ベタかとは思いましたけど、今の自分には“LIFE GOES ON”かなと。なので、宇田川町からはちょっと離れたかもしれませんね(笑)。

――「今まで書いたことのない曲」というのは、具体的にどんな内容を指しますか?

MULBE 例えば14曲目の「I SEE」は、大切な人が次々亡くなって、その人たちのことを思い出して書いた曲なんですが、「いい曲はできた」と思っていたものの、さらけ出しすぎかなと思ってMACKAさんに感想を聞いたら、「自分がいいと思ったら出すべき」と後押ししてもらったんです。

MACKA-CHIN 前作のときに結構言ったのよ、リリックに関して。ビートたけしイズムじゃないけど、エンターテインメントで勝負する以上、頭よくあれ、引き出しを多く持てと。「MULBEって、どの曲を聴いてもいつもこの色だよね」だと思われるのもシャクじゃん。

 例えば、女性アーティストと曲を作ることだったり、ヒップホップとテクノとの合いの子を作ろうとか、俺自身がひねくれもんだから、「引き出しを提示するから着いてこいよ!」って背中を押したのね。そうすることでMULBEの人柄が伝わるし、音楽から人間味が出てくることって大事じゃん。俺が言うのもなんだけど、コロナ禍でMULBEのお父さんが調子悪いって報告を受けたときがあって、それからしばらくして「父を見送りました」って連絡があった。俺はそこで強く生きてほしいと思ったと同時に、余計なお節介かもしれないけど、「そういう曲も作れ」って伝えた。俺みたいなおじさんからしたら、不良自慢やゲットー自慢の曲はおなかいっぱいだからさ。さらけ出す勇気、生身のMULBEを見せるのが大事じゃない? ってね。

MULBE MACKAさんのアドバイスは、ホント新しい自分と出会えたような感覚でした。正直、「テクノとの合いの子は……」って子どもじみた考えもありましたけど、今の自分は受け入れられる器の広さができたというか、「何事も越えていく」という気持ちを選べるようになったと思います。MACKAさんと遊ぶようになってから、いろんなジャンルを聴くようになりましたし、“ヒップホップのアルバム”として作っているのは間違いないんですけど、より多くの層の人に聴いてほしいという気持ちも強くなりましたからね。

MACKA-CHIN 実際に出来上がりを聴いて、そう感じたもんね。アルバムにはMULBE自身のライナーノーツというかさ、1曲1曲に対するコメントもあって、それも面白く感じたくらい。

MULBE 意外と言うことなかったらどうしよう……と思ってたんですけど、いざ書いてみたら余裕で思い出せるくらいスラスラ書けました(笑)。

『LIFE GOES ON』MULBE×MACKA-CHIN「渋谷・宇田川町~あの頃とその頃」の画像6
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MACKA-CHIN なんにでも言えることだけど、やっぱり真面目で頭がいい。それが生き残れる最大の秘訣だと思うんだよね。俺の時代はかっこつけることがよしとされていたからツッパってたけどさ。けど、俺らの時代でもこういう構成あったかな、って思えるボリュームのイントロ/スキット/アウトロ込みの17曲は爆笑したよ。

MULBE そういう作品を聴いて育ったので、自分のアルバムもそうしたい、という気持ちが強くなって。……次のアルバムはなくていいかもしれないですけど(笑)。

MACKA-CHIN こういうスタイルは、MULBEが先輩たちから受け継いだもののひとつだね、間違いなく。今の聴き手でアルバムを曲順に聴く人なんて滅多にいないだろうし。でも、雑な意見に聞こえるかもしれないけど、ジジイや熟女からは好まれるアルバムだと思うよ。ホントいいヤツというかさ、さっきも自分で「全国で友達が増え」って言ってたけど、MULBEはこんな性格だから友達も多いのよ。俺ら世代は上も下もガンシカで、シーンになんの貢献もせず音楽やってたから。MULBEは、まあよくできた子ですよ。

MULBE 全国いろんな場所で遊ばせてもらった方々に感謝です。

MACKA-CHIN ほら、もうこの言い方に人柄がにじみ出ちゃってんじゃん。いつだったかな、青森の営業でイベントがかぶったときに、北海道ツアーの話になって、俺が「なんかうまいもの食った?」って聞いたことがあったの。そしたらMULBE、なんて答えたと思う? 「モスバーガー」ですよ。「北海道産なのでレタスがシャキシャキで」とか、その瞬間に「あ、やっぱこいつイケてるわ」って思ったもんね。普通なら御当地ものに行くはずだし、そもそも北海道に降り立った時点で、モスバーガーには申し訳ないけど、モスの看板とか目に入らない体になるでしょ。

MULBE でも、おいしかったです、北海道のモス。

――MACKAさんがMULBEさんをイケてる認定せざるを得ないのは、モス以外からも十分伝わってくる対談となりましたが、今後MULBEさんとMACKAさんはどのように絡んでいかれるのでしょうか?

MACKA-CHIN 今回のアルバムを聞いて、B.T.Reo 440や1Co.INR(ワンコイナリ)って知らないプロデューサーを知ることができたのよ。そこってやっぱ、ヒップホップの面白さだよね。SpotifyやAppleとかサブスクってクレジットが詳細に表示されないからさ。それこそ宇田川時代は、マスタリングのスタジオやエンジニアの名前、ジャケットの写真に写り込む機材までチェックして、二次三次的な面白さまで発見してたくらいだし。自分の好みではあるけど、Reoくんと1Co.INRくんの曲は沁みた。こういうヒップホップイズムを率先して切り拓いていくというか、カルチャーとしてつなげていってほしいと思ってるんだよね、MULBEには。

 俺ら時代の宇田川町を体感できていなくても、間違いなくヒップホップのイズムは継承はできているわけだから。ジジイくささ、熟女好きのスキット、まだまだ信頼の置けるMULBEとは、末永く付き合っていきたいと思ってます。

MULBE ありがとうございます。『LIFE GOES ON』は、ずっと聴ける作品ができたという自負があるので、それを超える作品ができるまで、こちらこそ末永くよろしくお願いします。

[MULBE]

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『LIFE GOES ON』MULBE×MACKA-CHIN「渋谷・宇田川町~あの頃とその頃」の画像8
MULBE『LIFE GOES ON』(P-VINE, Inc. / THINK BIG)

1987年、東京都生まれ。沖縄出身のMC、D.D.Sとヒップホップグループ〈N.E.N〉を結成し、2015年にアルバム『N.E.N』を発表。20年にはソロとして1st ALBUM『FAST&SLOW』をリリースし、2ndアルバム『LIFE GOES ON』を22年3月にリリース。
Twitter〈@MULBE49
Instagram〈mulbe

[MACKA-CHIN]

『LIFE GOES ON』MULBE×MACKA-CHIN「渋谷・宇田川町~あの頃とその頃」の画像9
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まっかちん
1974年、東京都生まれ。ヒップホップグループ〈NITRO MICROPHONE UNDERGROUND〉のMCとして広く知られ、ソロ・アーティストとしてもジャンルレスに幅広く活動。
Twitter〈@MACKACHIN
Instagram〈opec_hit

協力=不純喫茶ドープ神田店

佐藤公郎(月刊サイゾー編集部)

『GROOVE』『LUIRE』(共にリットーミュージック)、『blast』(シンコーミュージック)、『FLOOR net』(FACTRY)などの音楽誌の編集を経て、現在は『月刊サイゾー』編集部勤務。主に音楽企画を担当。昨年末からスタートした音楽ライター・小林雅明/渡辺志保両氏がパーソナリティを務めるポッドキャスト〈サイゾー:Talk About Hip Hop〉の制作も担当。

Twitter:@56dtp

さとうこうろう

最終更新:2022/05/08 12:37
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