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今週の『金曜ロードショー』を楽しむための基礎知識⑧

『崖の上のポニョ』すばらしすぎるアニメと裏腹に実は疑問符だらけのストーリー

『崖の上のポニョ』すばらしすぎるアニメと裏腹に実は疑問符だらけのストーリーの画像1
日本テレビ系『金曜ロードショー』ウェブサイトより

 日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送される作品の基礎知識企画、今週放送されるのは宮崎駿監督作品『崖の上のポニョ』ですよ!
 
 日本映画史上最大のヒット(当時)を記録した『千と千尋の神隠し』以来、7年ぶりに宮崎駿が原作・脚本・監督を手掛けた長編映画だ。そういうことからも注目を集めていた最新作。
 
 その理由は単に数年ぶりの新作映画というだけではない。『もののけ姫』以降、宮崎監督は引退をほのめかすような発言を繰り返しており、『千と千尋の神隠し』公開時や『ハウルの動く城』の際にも引退を口にしていた。『ポニョ』公開年の2008年はスタジオジブリ内に保育園をつくり、初孫を授かった時期で「体力的にも長編映画をつくるのは最後」という発言からも終活に向けた引退の信憑性が伺えた。
 
 「世界に誇る巨匠・宮崎の引退作か!?」
 
 当然のように世間の注目を浴びることになった作品だが、公開当時のワイドショーで主題歌として発表された大橋のぞみの歌とレコーディング風景に、筆者はのけぞった。舌ったらずな大橋の歌声に映画の内容そのまんまの歌詞。それを見た局アナやコメンテイターらの巨匠に最大限、気を遣ったコメントに不安が過った。
 
 そして出来上がった映画は……。
 
 海の女神と人間で、魔法使いの父親によって育てられた魚の子、ブリュンヒルデはひょんなことから「家出」をする。魔法使いの父親、フジモトは自然を破壊し続ける人間に嫌気が差して海の眷属になることを決意、海の生き物を保護、増殖させ「海の時代」が来ることを夢見ている。
 
 だから外の世界に興味を持つブリュンヒルデを閉じ込めるようにしていたのだが、家出をした彼女は、海に投棄されたジャムの空き瓶にはまり込んでしまう。海のそばの家で母親と暮らす保育園児の宗介が瓶を割ってくれて助けられ、ブリュンヒルデの体つきがぽにょっとしていることから宗介に「ポニョ」と名付けられる(なんというそのまんまなネーミング)。
 
 ポニョは宗介のことが好きになり、宗介もポニョが好きになるが、フジモトによってポニョは海の世界に連れ戻される。瓶を割った時に怪我をした宗介の指を舐め、血を吸ったことで魔力を得たポニョは宗介と同じ人間のように手足を生やし、フジモトが「海の時代」の到来のために溜めていた「生命の水」を使い、脱出。魔力を使って宗介の元へ戻ろうとするが、魔力を使ったせいで「世界の大穴」が開いてしまい、街を異常気象と津波が襲い大混乱が起きる。
 
 製作を遅らせるほど凝りに凝った海の底の世界と波の描写はすさまじく、「水」や「海」を描く事に長年苦心を重ねてきた日本のアニメーションの歴史上、群を抜く、見たこともないような映像だ。何匹もの巨大な魚の群れを波に見立て、その上をポニョが全力で駆け抜けていく場面などスペクタクル性のあるアクションや、魑魅魍魎が蠢く獄彩色の海底世界など、奇天烈な美術に魅入ってしまう。
 
 一方、ストーリーはなんとも曖昧で話の起承転結がなく、物語上の詳細な説明も省かれている。登場人物の行動も常識外れというか、「それってどういうつもり?」と言いたくなる。宗介は海で拾ったポニョを「金魚だ」と言い張り(どう見ても金魚には見えないし、金魚は海にいないよ)、水道水を張ったバケツに放り込む(海の生き物、水道水に入れちゃだめだよ)し、ハムを食わせる。
 
 宗介の母親も母親で、異常気象の中で通行止めになってる道路を「家に帰るから」という理由で人の制止も振り切って爆走するし(自動車が曲がりくねった道を突き進むシーンの描写は見事なんだけど)、嵐の中、子供を家に置いて飛び出す始末。貨物船の船長をやってる父親はほとんど家庭を放置しているけど、家族を愛してると口にして憚らない。この父親役が長嶋一茂なんだけど、一茂といえば長嶋茂雄に連れられて球場に試合を観に行ったら、ミスターが息子を連れてるのを忘れて家に帰ってしまうことが何度かあったというけど、そういう人間が大人になったらこうなるのかなあ……ってそれは映画と関係ないか!
 
 クライマックスで街(というか世界)は大津波に襲われ飲み込まれる。どう見ても確実にかなりの犠牲者が出るスケールなんだけど、作品内ではそういうことに一切触れず、明らかにポニョのせいで起きている大災害を誰も気に留める事なく、海の女神さまの力で事態は解決(津波に飲み込まれた人もなぜか生きている)、ポニョは人間の女の子になって宗介と暮らすことができました……という強引にもほどがある結末。
 
 製作当時の宮崎監督は前作『ハウルの動く城』あたりからはっきりとした起承転結や、物語の山や谷をつくるのを避ける傾向にあり、『ポニョ』はその傾向が顕著になった例である。そんなことが気にならなくなるような勢い、スピード感が大事なのだと。
 
 そういう意味で本作はジェットコースターのような映画だ。乗ってしまえばあとは出発地点に帰ってくるだけだが、スリルとスピードがあり、他のことなど気にならなくなってしまう。いちいちああだこうだと説明されなくても体験すればわかることだろうということ!
 
 最後は宮崎監督曰く「のぞみちゃんの無垢なる歌声」の前にすべてが癒されてハッピーエンド! 「これ、ハッピーエンドなの?」とか考えてはいけない、感じるための映画が『ポニョ』なのだから。

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2022/05/13 10:40
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