『マイスモールランド』ここ、日本で生きる17歳クルド人少女と「外国人」
#映画
嵐莉菜が体現するマイノリティを求める人々の葛藤
本作の主人公・サーリャは、幼い頃から日本で育ってきたこともあって、自分が外国人という意識は全くない。その妹、弟ともなればなおさらだ。
しかし、周りからの、悪気のない「外国人」扱いが時にサーリャを傷つける。自分の故郷は日本であるのに、いつまでも日本が自分を“日本人”だと認めてくれない――移民や難民の、特に次世代が持つ、ここであるはずの故郷、アイデンティティがないという繊細な感情を体現するサーリャ役を演じたのは、モデルの嵐莉菜。稲川素子事務所の外国人タレントとして実績を積んだのち、事務所を移籍し、現在はファッション誌「ViVi」(講談社)の専属モデルとして活躍している嵐は、本作で映画初出演にして初主演を果たした。
彼女自身も日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアのミックスという5カ国のマルチルーツを持ち、17歳の現役高校生でもある。この役を演じることは、大きな意味があったといえる。さらに今作でサーリャの家族を演じたアラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデーは、嵐の実際の家族だ。
嵐が本作で見せている演技は、全てこれが自分たちの身に起きたことだったら……と置き換えたもので、これ以上のリアルは存在しないだろう。さらに本作が長編デビューとなる川和田恵真監督も、イギリスと日本のダブルであることから、心情として共通する部分も多い。
難民だけに限らず、日本に住む外国人、外国にルーツを持つ人々の心に突き刺さる物語。彼らにそれを感じさせないようにしていくのは、日本側の使命でもある。
「外人」という呼び方が差別用語と認知されて久しいが、もう「外国人」という言い方、考え方自体も変えていかなければいけないのかもしれない。少なくとも、本作の主人公・サーリャのように、日本で暮らし、生きている人たちをそうカテゴライズすることははばかられる。
ウクライナ難民と日本の受け入れ体制の問題
本作は、家族や仲間同士の助け合いといった、心温まるものもある一方で、目を背けたくなるような、日本の闇も浮き彫りにしている。
例えば、本作の中でも描かれていることとして、難民申請が無効になってしまった際に、弁護士を通じて異議申し立てをすることは可能だが、それには長期間を必要とする。その間は行動が制限されてしまい、働くことが禁止され、他県への移動も許可がなければできない。数カ月間、収入がなくても生活できる人ばかりではない。生活に困窮し、仕事をしてしまうと、それは“不法”とみなされて収容されてしまう現状は、非常に理不尽としか言いようがない。日本の偏ったルールが、あえて日本の言う“不法行為”に向かわせているように思えてならないのだ。
日本人は他県へ移動することなどなんでもないことだが、日本で暮らす難民の人々やその家族にとっては、東京と埼玉であっても、目には見えない“国境”が存在しているのだ。
タイムリーな話として、今起きているウクライナへの軍事侵攻によって、多くの難民が生まれている。先日、某報道番組で橋下徹氏がこの問題に絡めて、「日本はどんどん移民を受け入れるべき」と発言していた。これは単純に、ウクライナの人々を救済したいという正義感によるものだろう。一方、橋下氏は「日本の国で生活してもらう以上は、日本のルールにきちっと従ってもらう」と言っていたが、こちらの受け入れ体制や制度の地盤が固まっていない現状があるのだ。それができてからでないと、意味がない。日本に逃れてきた難民に二次被害が及ぶようでは、さらに被害者を増やすだけだ。
さまざまな問題が浮き彫りになり、難民問題も起こっている今だからこそ、不安定でグラグラな、日本が抱える難民・移民問題を、本気で考え直さなくてはならないのだ。本作は、そのきっかけのひとつとなる作品なのかもしれない。
「マイスモールランド」
5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、サヘル・ローズほか
監督・脚本:川和田恵真
主題歌:ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g」
企画:分福 制作プロダクション:AOI Pro.
共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会
配給:バンダイナムコアーツ
公式HP:mysmallland.jp
公式twitter:@mysmallland
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