「まじめにアイドル」9年目。寺嶋由芙と「まじめ」に考える、アイドルの“持続可能”な労働環境
#アイドル #インタビュー #新型コロナウイルス #寺嶋由芙 #あぷ噛む
この2年、アイドル、そしてファンにとっても苦しい日々が続いている。ライブに通ってコールをしたり、握手をしたり、アイドルとファンにとって「日常」と化していたことのほとんどが「非日常」になってしまった。アイドルはもともと生半可な仕事ではないけれど、今、アイドルとして生きていくことはさらに容易ではない。
アイドルが楽しく活動できる環境を整えるべく、労働環境の諸問題に声を上げる、寺嶋由芙、通称ゆっふぃー。「古き良き時代から来ました。まじめなアイドル、まじめにアイドル。」をキャッチコピーに、アイドル活動を10年以上続けている彼女は、生配信番組『ABEMA Prime』やnoteでアイドルの労働問題に言及し、YouTubeでアイドルに向けた「持続化給付金の説明」を行うなど精力的に活動する。
この2年を経て、寺嶋由芙がアイドルの労働環境について考えたこと。アイドルとオタクたちへのメッセージを、ゆっふぃー(敬愛を込めてニックネームで呼ばせていただく)は真摯に話してくれた。
まじめな声が、きちんと届くようになった
──2020年、『ABEMA Prime』出演時に「アイドルの労働組合がほしい。アイドル本人の心身の健康、安全な活動環境を確保し、志のある子が長くつづけられるようにしたい」とおっしゃっていたのが印象的です。ゆっふぃーさんは、AKB48が台頭し、ももいろクローバーZなど数多くのアイドルがデビューした“アイドル戦国時代”の2010年代から活動をされていますが、昔と今を比較して「アイドルの労働環境」について変化を感じる部分はありますか?
寺嶋由芙(以下、寺嶋):まず、まじめに取り上げていただく機会が増えたと感じます。以前は、アイドルの労働環境について発言をすると批判的に捉えられることもありました。真剣に声を上げているのに「運営とモメてる子」というふうに見られて、炎上案件のひとつとして扱われ、雑な噂が広まってしまう。アイドル自身が損をするような取り上げられ方で、内情を丁寧に見ていただけませんでした。だけど最近は、アイドル側が感じているさまざまな問題をまじめに聞いてくださって、一緒に考えてもらえる機会が増えていると思います。
ただ、それは自分で発信ができる一部のアイドルだけで、ほかの多くのアイドルが今をどんなふうに過ごしているのか見えづらいというのは、正直不安なところです。以前は、夏フェスなどアイドルが集まる場で交流がありましたが、コロナ禍で他のアイドルさんとご一緒する機会がめっきり減ってしまいました。
私がご一緒する方々は大きな事務所に所属していない方も多いので、状況が大きく変わったと思うんです。活動自体が厳しくグループの解散を余儀なくされたり、事務所の人員が削減されてアイドルのメンタルケアが後回しになったり。いくら配信が普及してきたとはいえ、リアルな現場とはお金の動き方も全然違うだろうから、アイドルとして生活するのが難しい人もいると想像すると、みなさんがこの状況を無事に乗り切ってほしいと祈るばかりです。
──ライブ活動がベースのアイドルだと生活していくのも大変で、精神的に参ってしまっている人が多いのではないかと心配になります。
寺嶋:アイドルにとって直接オタクのみんなに会って、応援してもらったり褒めてもらったりすることは、精神衛生上にもすごく大事なんです。だから、そういうことがかなわなくなったここ2年のアイドルに対する心のケアというのは、実はすごく大事なことだと思います。
──ゆっふぃーさんもこのコロナ禍にメンタル面でイエロー信号があったと思うのですが、その期間をどう乗り越えられましたか?
寺嶋:そうですね……活動に対するダメージはありましたけど、あまり落ち込まないでいられました。それは、みんな同じ状況で、「(今活動が止まってしまっているのは)私のせいじゃない」と大手を振って言えたからだと思います。もう、どうしようもなかったじゃないですか。こんな状況初めてで、どうしていいのか誰も正解がわからない。だから、見えない未来を考えるよりも「今できることは何か」を改めて考え直して、できることをひたすらこなしていきました。
──落ち込まないでいられたとはいえ、ご自身も切迫された状況で、同業者であるアイドル向けに「持続化給付金の申請方法」に関する動画を発信されたことには、ゆっふぃーさんの信念や強い気持ちを感じました。どうして発信することを決めたのでしょうか?
寺嶋:正直なところ、自分も含めて、アイドルの収入減の問題はかなり深刻だと思っていました。一般企業の社員の方のように月給や年俸が約束されていない方がほとんどなので、「仕事ができない=収入がなくなってしまう」。そんな危機的状況でも、給付金を受け取る権利があることに気がついていないアイドルが多いように見受けられました。直接アイドルさんたちと話せないのなら、動画を通じてお伝えしようと思って作ることを決めたんです。
──給付金を受け取る権利があるかどうか、というポイントでつまずいてしまうんですね。
寺嶋:歌って、踊って、オタクと楽しく握手をして、自分の好きなことをやっているから「仕事」とは捉えにくいんだと思います。いわゆる「会社勤め」とはかけ離れたものだから、私たちにも同じ権利があるとは想像しにくいですし、給付金を受け取ることに後ろめたさみたいなものも感じてしまう。ですけど、アイドルは仕事のひとつですし、好きなことを仕事にしているだけ。
コロナ禍で活動が制限されて、仕事だと信じてきたものが「そうではないかもしれない」と不安になる気持ちはすごくよくわかりました。ですが、私たちには権利があるんです。そういうことを、政治家ではなく、当事者の私が発信することで届く層もいるのかなと思って発信することに決めました。制度についてものすごく調べましたし、詳しい方にもバックアップしてもらいました。実際にあの動画を見て「申請しました」と直接連絡をくれたアイドルさんもいて、少しでも役に立てたのかなと思うとうれしいです。
「痛い思いをして気づく」そんなつらい方法に人生を使わないで
──アイドルは、個人的な悩みを表立って語りづらい、語らないというイメージがあります。アイドル同士で悩みを共有したり、相談したりするコミュニティというのはあるのでしょうか?
寺嶋:私自身があまり交流を多く持たないタイプなのでわからないのですが、なんとなくの肌感で、アイドルさんはまじめでプロ意識が高い方ほど、困っていることを口にしない印象があります。私もどちらかと言えば困りごとを外に出せないタイプ。それが自分のポリシーでもあるんですけど、悩みや不満を周りに言わないままアイドルを諦めてしまう人もいると感じます。
「夢を見せる仕事だから」と責任を感じて、他の人に弱い部分を見せないようにしてしまうんですよね。“自分でなんとかしなくちゃ”と、すべての問題を自分で解決しようとしてしまう。だからこそ、発信が必要だと思いました。
──ゆっふぃーさんも、不満や悩みをご自身の中に溜め込んでいたのでしょうか?
寺嶋:これまで気づいてなかったんですけど、こうやってお話させていただく機会が増えて思い出したのは、私も20代の頃は結構ハードな思いをする機会が残念ながら多かったなということです。初めてのアイドル活動だったので、それが当たり前だと思っていたし、売れるためには言われたことは必ずやらなきゃいけないと思っていました。
──自分の意見を言えるような立場ではなかったんですね。
寺嶋:経験が圧倒的に少ないですから、正解もわからなかったです。だから、肉体的にも精神的にもしんどかったり、ちょっと疑問や嫌悪感を感じたりしたときも、意見できませんでした。アイドルが好きで、先輩アイドルさんたちの作品を遡って見返して、憧れを募らせてきたので、自分の作品も後世まで残るものにしたいなと思ってきました。だからこそ、不本意なものが世に残るのは悔しかったし、悲しかったんです。「売れたら逃れられるんだ」と言い聞かせて我慢していたけど、今振り返って考えてみると、おかしいこともあったと思います。
──アイドルにも、誰しも声を上げる権利があり、自分自身の活動に対して意見するのは真っ当なことだと思います。ですが、現実的には難しい部分もあったのかなと……。今のゆっふぃーさんが当時の自分に声をかけるならば、どういう気づきを伝えたいですか?
寺嶋:アイドルは若くて無知だと思われているかもしれないけれど、そうではいけない。広い知識や視野を持って、受動的ではなくて能動的なアイドルになっていいんだよ、ということですかね。何か、おかしいな?と思うことがあったら、同じような疑問を持つ人が近くにいないからって当たり前にせず、周りに相談をしてみてほしいです。声を上げることが難しいなら、環境を変えることも手だと思います。実際に私はソロ活動をする中で、いいスタッフさんに恵まれて視野が広がりました。
──苦しみも糧になる、みたいな考え方もありますけど、そんな苦労は必要ではないですよね。
寺嶋:「痛い思いをしてやっと気づく」なんて、そんなつらい方法に自分の人生を使わなくていいと思います。私は幸いにもいいスタッフさんたちに出会えましたけど、仲良くしていたアイドルさんの中には心身を壊して、この業界での活動だけでなく自分の人生にまで影響してしまった子もいます。そういう人を増やしたくないです。
──以前のインタビューで、ジェンダー論研究者の高橋幸さんが「アイドル自身がやりたいことを利用して、自己実現を搾取することは悪だ」とおっしゃっていました。応援するファンとしても、アイドルには自分自身の夢やかなえたいことに向かって歩みを進めてほしいと願うばかりです。
寺嶋:もちろん乗り越えなきゃいけない壁や苦労もあると思いますが、精神的苦痛は自分自身を追い詰めてしまいます。そしてこういう話をすることで、デビュー当時から私を応援してくれているオタクが、苦しかった時期の私のことを思い出して胸を痛めてくれているかもしれないと思うとそれも申し訳ないです。いい思い出もあるのに、彼らの思い出まで否定してしまうようですごく申し訳なくて……。
ですけど、つらかった思い出や違和感も発信しないと、アイドルの世界が変わらないと思うんです。オタクには酷なことをさせて申し訳ないけれど、できるなら一緒に戦ってほしいというのが正直な気持ちです。もし「ゆっふぃーが指摘していたことに近いぞ?」「おかしいぞ?」と思うことを見聞きしたら、アイドルの代わりに発信したり、声を上げたりしてほしい。もちろん、本来お客さんにそこまで求めるのはおかしなことなので、「ライブ楽しかったな!」「握手できてうれしいな」だけでもいいのですが、もう一歩踏み込んでアイドルに関わりたいと思ってくれるオタクの方々には、広い視野で見守ってもらえたら頼もしいです。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事