がんの発見精度が向上中、食道がんにも新しい効果 東北大と宮城がん研が発表
#がん #抗体
東北大学と宮城県立がんセンター研究所の研究グループは4月20日、食道がんの大部分を占める扁平上皮がんを特異的に検出できる、抗体の開発に成功したと発表した。この抗体は下咽頭がん・子宮頸がんに検出にも効果があった。
「食道がんを特異的に診断できる新しい抗体を開発 食道がん診断精度の向上と下咽頭がん・子宮頸がんへの応用も期待」(東北大学)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/04/press20220420-02-cancer.html
がんは国内における死因の第1位となっており、20年にがんで亡くなった人37万8385 人にのぼっている。
がんを診断・治療する上で、患者の安全を確保するため、がん組織を正常な組織から正確に区別することは極めて重要だ。しかし一般に、がんの診断は主に熟練者による細胞や組織の形態的な判別に頼っており、がん組織と正常組織の境界の場合、しばしは診断が難しい場合がある。
がんだけにしか存在しないタンパクなど有効な目印(マーカー)があれば、診断がより簡便・正確になるが、そのような目印タンパク質は極めて限られている。
今回発表によると、研究内容と結果は以下の通り。
研究グループの以前の研究成果から、食道がんの大部分を占める扁平上皮がんには CD271と呼ばれる糖タンパクが発現しており、CD271糖タンパク質が多く存在している扁平上皮がんではがんの悪性度が亢進することが明らかになっていた。
しかし、CD271糖タンパク質は、食道の正常な扁平上皮にも存在するタンパク質であることから、CD271糖タンパク質をがんの診断・治療に応用することは困難だった。
一方で以前より、がん組織と正常組織の両方に存在するタンパク質のなかには、糖タンパク質の糖鎖修飾が決定的に異なるものがあることを見出していた。
扁平上皮がんとは、主に顕微鏡での形態観察によって分類される癌種のひとつで、飲酒や喫煙など環境因子によって発がんリスクが上がることが知られており、遺伝子変異が比較的複雑であることから、治療標的を同定しづらい。
また、糖タンパク質とは、多くのタンパクは細胞内で合成された後に糖鎖が結合することが知られており、糖鎖の付いたタンパクを糖タンパクと呼ぶ。糖鎖のパターンは多様性が高く、その生理活性は不明な点が多い。
そこで今回の研究では、その糖鎖修飾の違いに着目して抗体を作製した結果、がん組織に特異的な糖鎖修飾をもつCD271糖タンパク質のみを認識する新しい抗体(G4B1)の開発に成功した。
正常・上皮内腫瘍・がんを含む食道がん 計114例を調べた結果、これまで市販されていたCD271糖タンパク質に対する抗体では、がん組織・正常組織の両者でCD271糖タンパク質が検出されたのに対し、新たに開発したG4B1抗体は、がん症例のみを検出することができた)。
また、同じ扁平上皮がんである下咽頭がん・子宮頸がんを調べたところ、同様にがん症例のみを検出することができることが確認された。
G4B1抗体がどのようにCD271糖タンパク質に結合するか詳しく調べた結果、この抗体はCD271糖タンパク質のシアル酸・O型糖鎖による糖鎖修飾とその立体構造を認識していることが明らかになった。
研究グループでは、「研究により開発されたG4B1抗体により、食道扁平上皮がんの診断精度が向上することが期待される。また、食道がん特異的な糖鎖修飾の存在は、がん特異的
治療の理解・開発が一層進むことも期待される」とコメントしている。
研究成果は22年4月19日Cancer Science誌(電子版)に掲載された。
すでに、いくつかのがんには、今回開発された抗体のように、がんの発見精度を高めるマーカーが実用化されているが、食道がんの新たなマーカーの開発が実用化されれば、早期発見・治療に新たな道を切り開くことになり、実用化に期待がかかる。
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