見た目も悪い銀歯治療は消滅の可能性―アレルギーなど負の側面多数
#鷲尾香一
虫歯を治療した時にかぶせる“銀歯”の代わりに、歯科用プラスティック材料の白い被せ物を大臼歯(奥歯)に使っても問題がないという研究結果を東北大学の研究グループが発表した。銀歯の時代が終わりを告げるかもしれない。
東北大学の研究グループは4月8日、CAD/CAMで製作した金属を使わない白い被せ物(CAD/CAM冠)の第二大臼歯へも適用できるとの結果を発表した。
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発表によると、第三大臼歯は「親知らず」で生えてこない人もいるため、第二大臼歯は実質的な奥歯にあたる。また、CAD/CAM冠はComputer Aided Design/Computer Aided Manufacturingの略で、コンピュータによる冠などの補綴装置の設計と切削加工を行う装置。
歯の被せ物(冠)の治療に用いられる金属へのアレルギーだけでなく、見た目が良くないなどの問題点がある。
さらに、最近の貴金属の価格高騰、特に銀歯の材料として保険診療が適用されているパラジウムはロシア軍のウクライナ侵攻の影響により価格が急激に上昇しており、仕入れ価格が保険から支払われる金額を上回る状況となり、医療費の増大と歯科医療機関の経済的な負担が大きな問題となっている。
銀歯が金属アレルギーの原因となる仕組みについては、同大と札幌医科大学の研究グループが21年12月27日に「歯科金属アレルギーにおけるアレルギー抗原の発現機構を解明」を発表している。
歯科治療では、貴金属の代替材料として安定した供給が可能で、高強度かつ歯に近い色の歯科用樹脂材料(ハイブリッド型コンポジットレジン)がある。
近年、この樹脂材料のブロックからコンピュータ制御により削り出して作製するCAD/CAM冠の技術が確立された。これに伴い、14年には小臼歯のCAD/CAM冠が保険適用となった。
しかし、樹脂材料は金属に比べると強度が低いため、強い咬合力が加わる大臼歯(奥歯)への保険適用は、16年に金属アレルギー患者に限定して認めた。その後、17年に金属アレルギーのない患者にも適用が拡大されたが、噛み合わせの条件が整った第一大臼歯に限定され、第二大臼歯やもっとも奥歯となる大臼歯については、適用が見送られている。
この背景には、大臼歯のCAD/CAM冠の臨床研究が少なく、安全性のエビデンスが確立していないことがある。
そこで、研究グループはCAD/CAM冠の調査を行った。調査結果は、以下のようになった。
CAD/CAM冠を装着した362本の大臼歯について、最長4年間の経過を調査した結果、106本(29.3%)に何らかの臨床的トラブルが生じていた。
ただし、発生したトラブルのうち79本 (74.5%)が冠の脱離で、脱離したCAD/CAM冠のほとんどは再装着が可能であり、再装着を許容すれば生存率は93.1%だった。
統計解析の結果、トラブルの発生について冠の装着部位(上顎/下顎、第一大臼歯/第二・第三大臼歯、最後方歯かどうか)による有意な差は認められず、生じたトラブルの多くは、懸念されていた冠の破折ではなく、冠の脱離であり、そのほとんどは再装着によりそのまま使用可能だった。
この結果、CAD/CAM冠は健康保険が適用されている第一大臼歯CAD/CAM冠の成績と同等だったことから、第二大臼歯あるいは歯列の最後方にある第一大臼歯を含むすべての大臼歯に適用できる可能性が示唆された。
研究グループは、「CAD/CAM 冠の保険適用範囲が今後すべての大臼歯に拡大されることを前向きに支持するもので、金属の被せ物の治療で問題となる金属アレルギー、見た目の悪さ、歯科用金属の価格高騰による医療費増加などの問題解決につながることが期待される」とコメントしている。
研究成果は、4月7日付で PLOS ONE誌に掲載された。
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