セックスビデオが発端の争いを描く『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』
#映画 #ヒナタカ
TikTokのように流れ続ける動画の意味
続く第二部では、短いエッセイフィルムがアルファベット順に、まるでTikTokの動画のように矢継ぎ早に映し出されていく。例えばAは「August 23,1944」で、その1944年8月23日はルーマニアが独裁者のイオン・アントネスクを解任し枢軸国から離脱、連合国に降伏した日であったりする。
その後も「家庭内暴力」や「ソーシャルディスタンス」や「地球温暖化」や「ポルノグラフィー」など、ルーマニアまたは世界中の歴史、政治、教育、セックスなどにまつわる単語、それに関連する情報や格言やブラックジョークが流れ続けるのだが、深く考える暇もなく次から次へと流れ続けるため、脈略がなく意味がないようにも思えてくる。
だが、得てして現実に起こるあらゆる問題は一面的ではなく、さまざまな事象の集積により発生するものだ。この取り留めのないように思えたアルファベット順の単語の羅列も、劇中の第一部のピリピリした空気、第三部で起こる争いと無縁ではないかもしれないし、そうでもないかもしれない……と妙に考えさせられたりもするのだ。
バカげた争いの先に待ち受ける爆笑もののオチ
最後の第三部で、ついに主人公は、中庭で待ち受けていた、保護者たち20数名および校長と「対決」をする。主人公が普通の不織布マスクをつけている一方、保護者側が布製のおしゃれ(?)な柄付きマスクをしていることが、すでに両者のスタンスを示しているかのようだ。
マスクだけでなく、保護者側は軍服を着た男、リベラルを装う男、セックスの経験でマウントをとろうとする女、歴史修正主義者、人種差別主義者といった、良い意味でデフォルメされたイヤな面がわかりやすく見えてくる。
彼らが具体的にどのようなことを議論し、その後に何が起こるかは秘密にしておこう。人生最大のピンチを迎えた主人公が真面目に取り組む一方、保護者側の極端な論理展開の数々には苦笑いしてしまうし、主人公の正論も正論の訴えを保護者側が子どもや教育を人質にとって正当化し覆そうとする様はもはやホラーのようでもあった。
さらなる衝撃は「オチ」の部分。もちろんこれもネタバレになるので書けないが、あまりにくだらなくてヒドすぎて(褒めている)爆笑してしまった。だが、このしょうもない議論の末に待ち受ける結末としてはある意味で大納得であるし、現実にも星の数ほどあるバカバカしい争いへの「カウンター」としては愉快痛快でもあったりするのだ。
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