セックスビデオが発端の争いを描く『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』
#映画 #ヒナタカ
4月23日よりルーマニア・ルクセンブルク・クロアチア・チェコ合作の映画『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版』が劇場公開されている。
何も知らないと「一体なんなんだ?」と思うばかりのタイトルであるが、実際に観てみると、なるほどこれは名は体を表す納得の触れ込みであり、現実にある「コロナ禍での争い」をも皮肉った見事なブラックコメディとなっていた。
あらすじや種々の要素を取り上げれば「下世話」そのもののような内容でもあるが、作品評価はすこぶる高く、2021年ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞、ルーマニアの米アカデミー賞代表作品に選出、ニューヨークタイムズが選ぶ2021年ベスト2位にも選ばれている。さらなる魅力と特徴を記していこう。
開き直りがスガスガしい〈自己検閲〉ギャグ
物語の舞台はルーマニアのブカレスト。名門校の教師であるエミは、コロナ禍の街をさまよい歩いていた。実は、彼女は夫とのプライベートセックスビデオが、意図せずネットに流失してしまい、学校や保護者の目に触れて大騒ぎとなったため、夜の保護者会で事情説明をするべく、校長宅へと向かっているのだった。
まず大笑いしてしまうのは、オープニングでの、あけすけな「本番」が納められた、そのプライベートセックスビデオのタイトルさながらの〈自己検閲〉ぶりだ。
画面の90%は虹色に彩られたで画で隠され、そこにはデカデカと「みなさん、検閲版だよ!」「検閲=金」といった自虐的なテロップが表示される。「このままだと上映できないから自分で検閲してやったよ!これなら文句ないだろ!」という作り手の声が聞こえてくるような、ある種の確信犯ぶり、開き直りがいっそスガスガしい。
それでいて、画面の90%が検閲されようとも、音声だけでもそのプライベートセックスビデオのアブノーマルぶりは存分に伝わってくるので、「(撮影者が個人で楽しむのなら問題はないけど)そりゃあネットに流出したら問題にもなるよね」と存分に納得もできる。このオープニングの「突き抜け」ぶりから作品および製作者の姿勢が手に取るようにわかるという、親切設定(?)になっているわけだ。
そこかしこにコロナ禍での「争いの火種」がある
本編は3つの部に分かれており、第一部では主人公の教師がひたすらに街を歩く様を映し出していく。人々の多くはマスクをつけており、コロナ禍だからこそこのストレスが言動に表れており、時には一触即発の言い争いにも発展していく。
ただ街を歩き続ける様は少し退屈に感じるかもしれないが、それらの人間同士のピリピリとしたやり取り、はたまた映り込むポスターや看板の「意味深」ぶりに注目すると面白く観られるだろう。薄汚れた第一次世界大戦終結100年記念の横断幕や、パンデミックのために行われなかったイベントのポスターは亡霊のような存在感を放っているし、オーラルセックスを連想させる看板、原色の巨大なアイスクリームコーンなどは、生々しく猥雑な性的な欲求を示しているようにも見えてくる。
街の人々、または街そのものが、怒りや不安、はたまた性的な欲求不満を抱えているかのような、良い意味でイヤな緊張感に満ちている。それは万国共通の「コロナ禍での争いの火種」を示しているとも言える。劇中でつぶやかれる「愚かな考えに囚われると、人は暴走してしまう」という言葉は特に、日本でも他人事ではないだろう。
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