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『関ジャム』宇多田ヒカルは母・藤圭子に贈る曲をデビューからずっと歌い続けている

『関ジャム』宇多田ヒカルは母・藤圭子に贈る曲をデビューからずっと歌い続けているの画像1
『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)Twitter(@kanjam_tvasahi)より

 4月10日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)は、宇多田ヒカルの特集。スタジオに登場したのは、シンガーソングライターの佐藤千亜妃、Awesome City Clubのボーカル・PORIN、宇多田楽曲のDJ MIXを手掛けるDJ YANATAKEの3人だった。

傑作『Fantôme』は、藤圭子の死に触れずに語ることはできない

 今回の特集では、6年の活動休止(宇多田曰く「人間活動」期)を経た後の3枚のアルバム(『Fantôme』、『初恋』、『BADモード』)に焦点を当てて掘り下げるようだ。個人的には、3rd『DEEP RIVER』や、4th『ULTRA BLUE』あたりが最も語りがいがあるような気がするが、「今こそが全盛期」とファンが考えているのも理解できる。

 かつてはJ-POPの金字塔を作っていた彼女も、最近はもっと普遍的な音楽を志向しているように感じる。特に、筆者にとって6th『Fantôme』は傑作だった。

「復帰後からは、日本語の美しさを意識して(歌詞を)書かれている部分が増えました。以前は途中、途中に英語を小気味よく挟んでいくことが多かったですけど、そうではなく、日本語の響きを大事にしているという印象のあるアルバムです」(佐藤)

 宇多田ヒカルは最初から日本語を大事にするアーティストだった。彼女の肝は昔から日本語詞である。ただ、復帰後の宇多田の曲から英語詞が減ったのは事実。改めて『Fantôme』の収録曲を見ると、日本語タイトルばかりだ。

 7曲目「真夏の通り雨」について、PORINは「固有名詞を使わずに普遍的な言葉の掛け算で、新しい表現になっている」と評した。彼女が指摘したのは、終盤に登場する「降り止まぬ 真夏の通り雨」というフレーズである。

「通り雨は一時的なものなのに、相反して、それが永遠に続いていく描写が大きな哀しみを物語っています」(PORIN)

 もうひとつ挙げるとすれば、「思い出たちがふいに私を 乱暴に掴んで離さない」というフレーズも印象的だ。普遍的な言葉しかないのに、すごく胸を突く表現だと思う。

 そして、このアルバムといえば3曲目「花束を君に」に触れないわけにはいかない。冒頭に登場する歌詞は、「普段からメイクをしない君が薄化粧をした朝」だった。宇多田は「TOWER PLUS+」2018年7月1日号のインタビューにて「『Fantôme』には喪に服しているような緊張感があった」と語っている。

 つまり、「普段からメイクをしない君」とは、2013年に他界した母・藤圭子のことを指している。その後には、「今日は贈ろう 涙色の花束を君に」という歌詞が登場する。死化粧をして死後の世界へ旅立つ母への餞(はなむけ)として、涙色の花束を贈る。そんなメッセージを込めたということ。2016年のインタビューで宇多田本人が明言していた。

「(『Fantôme』が)リリースされたら『これ、お母さんのことじゃない?』とすぐに気付いた人が多かったみたいで。しかも同情というわけでもなく、そこを踏まえつつ感情移入してくれていて。それが私にはすごくポジティブに感じられたんです」(「Real Sound」2016年9月28日

 藤圭子の死へ触れずに、この作品を語ることはできない。死、ジェンダー、そして東日本大震災などが取り上げられた、人間活動明けの傑作アルバム。聴くにはパワーがいる1枚だと思う。筆者はなんの予備知識もなく『Fantôme』に触れたので、初めて聴いたときはあまりの重さと暗さに驚いた記憶がある。

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