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榊英雄・性加害報道を受けての『ハザードランプ』公開中止の意義

榊英雄・性加害報道を受けての『ハザードランプ』の公開中止の意義の画像1
映画『ハザードランプ』公式サイトより

 2022年4月15日に劇場公開予定だったが、公開中止になった映画がある。山田裕貴と安田顕がW主演を務めた『ハザードランプ』だ。その理由は、監督である榊英雄の性加害が3月9日より報道されたことである。

 口にするのもおぞましい性加害の事実、その名前を聞くだけでフラッシュバックする被害者の方がいる以上、それは正しい決断であり、後述する理由でも意義深いことも間違いない。そして、俳優の木下ほうか、園子温監督の性加害も相次いで報道され、日本映画界でまかり通っていた唾棄すべき犯罪行為が、長年に渡って黙認・無視されていた事実が明るみになった。

 それらを受けて、映画監督有志による映画監督の立場を利用したあらゆる暴力への反対、小説家有志による作者として映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めるステートメントが発表された。映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインによる数十年に及ぶ性加害の告発、それから巻き起こった#MeToo運動から5年、日本でも映画界に蔓延っていた問題を変える動きがようやく始まったのだ。

 性加害そのものは言うまでもなく、「これほどまでに時間がかかった」事実も重く受け止めなければならないだろう。もっと早くに発覚していれば、性加害を受けることがなかった方が、少なからずいるはずなのだから。

必要なのは業界全体で「学ぶ」こと

 この性加害の報道を経た後の日本の映画界に必要なのは、性加害を断固として許さない体制の構築だ。そして「性加害がいかに甚大な被害を与えるか」を業界全体で「学ぶ」ことも有効なのではないか。

 事実、榊英雄監督作『蜜月』は性加害の報道後すぐに公開中止の決断がされたものの、『ハザードランプ』は3月14日の時点では「関係者の尽力に報いるためにも、また映画の公開を望んで下さっているお客様のためにも、映画『ハザードランプ』を劇場公開したいと考えております」との文言のもと、予定通りに公開するよう協議が続けられていたのだから。

 性被害を受けた方の精神的な苦痛と、関係者の尽力や観客の期待などは、そもそも天秤にかけるようなものではないはずなのだが、何としてでも「お蔵入り」を避けたい関係者の事情が垣間見えていたことにも、筆者は憤りを感じていた。だからこそ、その後の3月31日に「総意決定に至らなかった」という理由のもとで『ハザードランプ』の公開中止が発表されたことの意義は大きい。

 被害者の方や、その被害を知っていた関係者も、「迷惑がかかるから」という理由で告発ができなかった、だからこそ黙認・無視がされ続けたことも、「これほどまでに時間がかかった」理由の1つだろう。そうした「作品のために性加害を隠そうとする」ことの常態化が、完全に間違っていたのだ。このまま榊英雄が監督として大きく関わった『ハザードランプ』が劇場公開されてしまっていたら、性加害の問題の矮小化に繋がりかねなかっただろう。

 これからは、性加害がいかに被害者の方を苦しめるかという認識はもちろん、映画が資本主義に基づくビジネスであり、また多数の関係者が総力を結集させて完成させる芸術であることも踏まえてこその、「性加害そのものを絶対に許さない体制」が必要だと、映画に関わる方それぞれが胸に刻むべきだ。性加害がもっと早く明らかになっていれば、榊英雄は『蜜月』や『ハザードランプ』に関わることなく、別の監督の手で完成し、公開される可能性もあったはずなのだから。

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