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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 結局、クリス・ロックは許されるのか?
スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会#26

結局、クリス・ロックは許されるのか? 米スタンダップコメディからの回答

アメリカ社会が忌み嫌う直接的な暴力

 銃による犯罪が後を絶たないアメリカ国内。年々その被害件数は増している。実は授賞式の一週間前にもロサンゼルスのコメディクラブで、舞台上のコメディアンと口論になった観客が激昂し、ポケットから銃を取り出したという事件があった。このとき、たまたま会場に観客として来場していたマイク・タイソンが事態を収めたという「美談」になってこそいるが、その恐怖は計り知れない。もちろん「ことばの暴力」が存在することも承知している。しかしオスカーでの一件を経て、今後舞台上のコメディアンに直接的な暴力を加えようとする観客が増えかねない、という危惧はリアルな不安としてエンタメ界全体に突き刺さる。

 それだけに多くのコメディクラブが声明を出した。全米最大手のコメディクラブチェーン「ラフ・ファクトリー」は全国のクラブの電光掲示板に、クリス・ロックの顔写真とともに、

「当クラブは、すべてのコメディアンの『合衆国憲法修正第1条』の権利をサポートします。クリス、コメディコミュニティはあなたの味方です」

というメッセージを掲載した。ちなみに『合衆国憲法修正第1条』とは表現の自由を意味するアメリカの基本理念でもある。

 ニューヨークの「スタンダップNY」も入り口にポスターを貼り、それに続いた。

「スタンダップコメディアンは社会を批評する役目を担っています。それはとりわけこのカオスで不確かな時代においてより重要です。彼らは私たちを笑わせ、新しい視点を与えてくれます。そして私たちが普段見ている現実とは違った見え方があると教えてくれる存在なのです。ですから彼らは守られなければなりません。コメディアンたちに対するヤジやいかなる身体的暴力もこのクラブでは禁じられています」

 今回の一件で、アメリカにおいてスタンダップコメディアンが社会的に纏っている役割を改めて認識させられた。ただ観客を笑わせるだけでなく「社会に新しい視点を届ける」存在。それだけに他者を無自覚にパンチダウンせぬよう、差別的な言説を並べ立てぬよう、そしてラインを見誤らぬよう細心の注意と覚悟を持たなければいけない。

 この日、ラフ・ファクトリー・シカゴのオーナーでもあるカーティス・フラッグ氏はFOXニュースに出演し、カメラに向かってこう締めくくった。

「コメディアンは時にセンシティブで際どいジョークを言うかもしれません。そして、きっとこれからの時代、彼らには以前とは違った大きな責任とバランス感覚が求められることでしょう。しかし私たちは、彼らがその言葉で、アメリカをよりよく変えられると信じているんです。コメディアンたちが変わっていくように、社会も、そして観客も変わっていくはずです。どうかスタンダップコメディを信じてください」

Saku Yanagawa(コメディアン)

アメリカ、シカゴを拠点に活動するスタンダップコメディアン。これまでヨーロッパ、アフリカなど10カ国以上で公演を行う。シアトルやボストン、ロサンゼルスのコメディ大会に出場し、日本人初の入賞を果たしたほか、全米でヘッドライナーとしてツアー公演。日本ではフジロックにも出演。2021年フォーブス・アジアの選ぶ「世界を変える30歳以下の30人」に選出。アメリカの新聞で“Rising Star of Comedy”と称される。大阪大学文学部、演劇学・音楽学専修卒業。自著『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』(産業編集センター)が発売中。

Instagram:@saku_yanagawa

【Saku YanagawaのYouTubeチャンネル】

さくやながわ

最終更新:2023/02/08 11:16
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