『関ジャム』サカナクション・山口一郎が明かす作詞のプロセスとデヴィッド・ボウイとの類似点
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サカナクションが、新曲をリリースする前にライブで発表する理由
山口は「新曲リリース→ライブ」という通常の流れから「ライブで新曲発表→リリース」へ順番を変えたいと考えているようだ。
「(曲を)作って出すと、すぐ聴けるじゃないですか。もう、サブスクで聴けるし。でも、新曲が出たっていうドキドキ感はあまりなくないですか? 僕は昭和55年生まれなんでラジオ世代なんです。ラジオで新曲聴くときって『ついに、あの好きなミュージシャンが新曲を出す!』って、リリースをドキドキ待ってたんですよ。あの感じって今の時代になかなかないなと思って。じゃあ、(順番を)全部逆転したらどうなるかと」(山口)
山口の言うことはすごくわかる。サブスクは手軽でとても便利だ。でも、新曲がラジオで初解禁されてドキドキするあの感覚、発売日にCDを入手したあのワクワク感は何ものにも代えがたかった。流れを逆行させることで、あの驚きをライブに持ってくるという考え方である。
ライブで新曲を初披露するミュージシャンは、サカナクション以外にも多い。Mr.Childrenはアルバム『REFLECTION』収録曲を発売前にパフォーマンスするライブツアーを2015年に行ったし、BABYMETALやクラムボンの新曲初披露はほとんどがライブである。皆、考えることは同じなのかもしれない。さらに、このやり方には利点がある。
「ライブで演奏したものをレコーディングしてリリースするのは、普通のことなんです。ライブで演奏するとお客さんの反応がわかるじゃないですか? 『ここ、もうちょっとアウトロの尺が長いほうがいいかな』とか『ここ、もうちょっと盛り上げたほうがいいかな』とか、そういうのがわかってきて。『じゃあ、レコーディングまで時間あるからその曲直そっか』って」(山口)
ライブでオーディエンスの反応を肌で感じ、ブラッシュアップするということ。事実、サカナクションの楽曲「フレンドリー」は、初出のライブとレコーディング時ではバージョンが変わっている。まさに、ブラッシュアップしたのだ。M-1グランプリ前に舞台を重ね、ネタを洗練させていく漫才師のようだ。この流れについて、古田新太が言及した。
「最初に皿(フィジカル)を出して、それからライブをやって……っていうのがいつの間にか我々の中で普通になっていて。でも、もともとクラシックとかジャズもライブが先で、その後にレコーディングなんだよね。で、ライブをやっているうちに完成に近付いていくっていう。最初は『ライブで新曲って盛り上がれんのかな?』って思ったんだけど、もともとそうだったんだよな」(古田)
デヴィッド・ボウイの頃から伝わる作詞法
山口は歌詞作りにイラストレーターを使っているらしい。主にポスターやイラストなどの制作で用いられるAdobeのソフトだ。なぜなのか?
「(作詞では)『こういうことが起きたら終了』っていうルールを作ってるんです。それは、自分の想像を超えたとき。つまり、Aメロで恋愛のことを歌ってて、Bメロで自分の部屋のことを歌ったとするじゃないですか? それをくっつけたら、全然違う内容になったりする。自分の書いたものなんですけど、自分の想像を超えてるじゃないですか。こういうふうに“意味が跳ねた”ときに、やっと『できた!』って思うんですよ」(山口)
まず最初に歌詞に入れ込みたい部分的なフレーズを書き並べ、次のブロックへ移行。これを繰り返すのだ。つまり、各ブロックで歌詞のピースを作っているということ。その中で気に入ったもののみ、イラストレーターに設置した白いスペースへ持っていく。それらをくっつけたりしているうちに、いつしか“意味が跳ねる”。
実は、古くから伝わる作詞方法である。デヴィッド・ボウイはウィリアム・バロウズから影響を受け「カットアップ」(文章を1度バラバラに切り取り、それを組み合わせることで新しい文章にする)という技法を取り入れていたし、ブライアン・イーノは「オブリーク・ストラテジーズ」(カードにフレーズを書き込み、壁にぶち当たったときにカードを引いて古い思考から離れた着想を得る)という技法を発明した。
ウィリアム・バロウズの「カットアップ」は、僕に大きな影響を与えた。自分が意図的に書いた物より、遥かに意味が有って面白いんだ。
✳︎カットアップ:文章をランダムに切り刻んで新しいテキストとして組み合わせる偶発的文学技法
✳︎動画:カットアップを制作するボウイ pic.twitter.com/B37iyv6dQD
— デヴィッド・ボウイ 名言集@DavidBowieBot) February 5, 2021
山口は1曲の歌詞を書く際、多いときで70パターンを作るという。サカナクション「ミュージック」の作詞では、完成までに21段階もの過程があったそうだ。要した日数は、3カ月。そういえば、2019年リリースのアルバム『834.194』は1度発売延期になっているが、そのときの理由は「歌詞に妥協できず、アルバムを完成するにはもう少しだけ時間が必要となりました」(山口)だった。
「僕、歌詞書くときはWi-Fiを全部切るんです。誰も連絡取れなくなる。ネットもテレビもまったく見ないんで。1回、最長で6カ月間書いたことあります。だから、季節がひとつ飛ぶんですよ」(山口)
パソコンを使っていながらネットを切るのだから、正気の沙汰ではない。中日ファンの山口なのに、作詞期間中はドラゴンズの試合も見ないのだろうか? でも、そんな形で創作に臨めるなんて少しうらやましい気がする。みんながみんな、山口のようにはできない。
「秋元(康)さんは1~2時間で1曲書くって言ってたじゃないですか。ヤバいなと思って。(自分は)費用対効果悪いなと思って(苦笑)」(山口)
何パターンも作るのは歌詞だけではない。曲のアレンジも数パターン作るらしい。例えば、楽曲「プラトー」で山口はアレンジパターンを3つも用意していた。つまり、この人は多作なのだ。厳密に言うと、多作すぎてまとめきれないから寡作になる。
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