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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「有害な男性性」を描いた映画3選

『アネット』他、今に観る意義がある「有害な男性性」を描いた映画3選

オスカー受賞監督作からB級娯楽作まで!

2:『英雄の証明』 落とし物を返した「だけ」で英雄に祭り上げられる皮肉

 『別離』(11)と『セールスマン』(16)でアカデミー外国語映画賞(現・国際長編映画賞)を2度受賞したアスガー・ファルハディー監督の最新作だ。物語は、借金の罪で投獄され服役していた男が、金貨が入った落とし物のバッグを持ち主に返した「だけ」で、美談として英雄に祭り上げられ、その後にSNSでの噂などから状況がガラリと変わっていくというもの。次々に予測できない問題にぶつかる様、表向きは善良に見える主人公が「信用できない」ことも含め、ミステリーとして興味をグイグイと引く、エンターテインメント性も存分にある内容となっていた。

 設定だけ聞けば特異なものに聞こえるかもしれないが、描かれているのは「ちょっとした嘘や事実を隠し通そうとしたこと、はたまた正直に言いすぎたことが重なって、事態が悪いほうへと突き進んでしまう」という、社会に生きている誰にとっても他人事ではない問題だ。「全ての物事は一面的ではなく、多数の複雑な要素が折り重なっており、単純な善悪の判断は難しい」という、当たり前ではあるが大切なことも、今一度思い知らされるだろう。

 本作の主人公は表面的には不器用だが誠実、悪い言い方をすればバカ正直な男で、厳密には有害な男性性を描いた作品とは言えないかもしれない。だが、アカデミー賞でクリス・ロックを平手打ちしたウィル・スミスがインスタグラムに投稿した「全ての暴力は有害で破壊的」という言葉を証明するかのような、暴力により事態もその人の信頼性も挽回は不可能なほどに悪化してしまう様も綴られている、はたまたSNSで一面的に語る、または受け取る危険性も示されているため、やはりタイムリーにその問題を考えられる内容になっていた。

 ただし、本作は現在、アスガー・ファルハディー監督によるドキュメンタリー映画の講座の元受講者の学生から、盗作だと訴えられたことが話題となっている。映画の内容と同様に、監督が疑惑の人と化したのは皮肉的だ。だが、その現実での疑惑もまた、 公にされた複雑な事件や出来事についてどう向き合うかという、 本作で提示された問題を考える上では、 より当事者として真剣に考える要素になっているとも言える。 ぜひ、映画館で観ていただきたい。

3:『シャドウ・イン・クラウド』 零戦&グレムリンとダブルで戦うB級娯楽作

 『キック・アス』(10)や『トムとジェリー』(21)のクロエ・グレース・モレッツの主演作であり、下世話な表現をすれば「爆撃機に乗り込んで零戦&グレムリンとダブルで戦えば超面白いんじゃね?」なブッ飛んだアイデアを実現したサスペンスアクション映画だ。中盤から繰り出される危機の連続は「そうはならんやろ!」なツッコミどころもあるが、それも笑って(あるいは爆笑しつつ)許して盛り上がれる快作に仕上がっていた。上映時間が83分とタイトであり、サクッと楽しめる「わかっている」ボリュームなのも嬉しい。

 それでいて、『最後の決闘裁判』(21)や『プロミシング・ヤング・ウーマン』(21)にも近い、女性へのセクハラや性的搾取へのカウンター的精神を突き通す志の高さ、フェミニズムの精神がある。何しろ、男だらけの爆撃機に単身で乗り込んだ女性大尉は、銃座で男たちから下品極まりないセクハラを浴びせられ続ける。その閉鎖的な空間で身動きが取れない、下卑た言葉も聞き流すしかない状況をもって、戦時中ではより苛烈で、現在にも根強くある女性たちの苦しさを「擬似体験」できる内容になっているのだ。

 そのセクハラばかりのシーンはやや長めでストレスが溜まるが、もちろんそれも意図的なもの。その後はあっと驚くサプライズや、奇想天外なアクション、はたまたセクハラを続けてきたクズ男や差別主義者に「ざまぁ!」と心からスカッとできるしっぺ返しが待っている。さらにはクライマックスには拍手喝采したくなるほどの爽快感抜群の展開が待ち受けていたので、序盤の良い意味でのイライラが報われる、笑顔のまま映画を観終えることができるのだ。

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