平成ノブシコブシ徳井健太が考える「正解なき」芸人道―東野幸治でさえ敗北した道
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時短至上主義のZ世代には伝わらない!?“無駄の大切さ”
ーー徳井さんから「時短」という言葉を聞くとは……。
徳井:最近時短がはやってますからね。今は時代の狭間すぎて、伝えることって難しくないですか? この前『ホンマでっかTV』でコメンテーターの教授が「無駄がない生き方は~」って話をされていた時に、さんまさんが言ったんです。「まぁ、この人らはね、無駄が無駄なものやと思ってるから可哀想やな」って。そんなのわざわざ言う必要ないかもしれないけど、でも言わないと10代20代の子には伝わらないんですよ。
ーーなるほど。無駄の、無駄じゃない意味。
徳井:そう、例えば散歩もそうなんですけど、散歩して犬のふんを見るからそこから色んなことを思いつくわけで。家でVRで景色を見ていても、確かに無駄は少なくなるけど、決められた空間の中じゃ決められたことしか思いつかないって俺は思うんですよね。AIに見ろって言われた映画を観るよりも、レンタルビデオ屋でちょうつまんねぇゾンビ映画挟んだ方が、トークになると思いますし。
ーーそうですね。本に「コロナで本物が立ち上がる」というくだりがありましたが、あれもすごく共感しました。確かにリモート取材で思ってもないような展開になることって少ない。対面取材の贅沢さや貴重さはコロナを経験してようやくわかった気がします。
徳井:リモートならインタビュアーがAIでもバレなさそうじゃないですか。決まった流れを繰り返すだけならAIでも良いじゃんって思うことも多いです。
ーー無駄の大切さってどうしたら伝わるのでしょうか。
徳井:エンタメ自体無駄ですからね。なんでそんなに無駄を嫌がるのかわからないんですけど。Z世代は恋愛すら無駄だと言いますけど、それってもはや仙人のような発想ですよね。
ーー突き詰めていくと生きていること自体無駄なのでは……ってなりそうですね。
徳井:哲学ですよね。じゃあ死ねばいいでしょって話になるはずなんですけど、結局は生きてる。いわば哲学も無駄じゃないですか。でも答えがないから楽しいですよね。オセロより将棋の方が楽しいのは、将棋の方が答えがないからだと思います。麻雀も答えがないから未だに面白がられているし。答えがあるものはいつか飽きられてしまうでしょうしね。
お笑いもそうで、答えがないどころか、正解が不正解になることもあります。面白い答えのはずなのに、フリが違ったらスベりますし。たまに東大生や京大生がお笑い芸人になったりしますけど、東大に入れる頭脳をもってしても答えがでない分野なんだと思います。計算ずくでは売れることができないんだって面白さもある。
ーーそれは「敗北」と呼ばれるかもしれないけど、だとしたら敗北は面白いしエンタメの原点かもしれません。
徳井:現代っ子からすれば勝ち続けることが好きですもんね。人に聞いたりネットですぐに調べたりして、みんな時短しがちですし。若い時に先輩にも親からも「若いうちの苦労はしておくべき」とか言われて、当時は「うるせえよ」って思ってたんですけど、大人になると「たしかに」って思いますよ。この本は若い子には刺さりづらいと思いますが、自分がが何かに負けた時や、人生の「つなぎ目」のタイミングで読んでもらえるとまた違うかもしれないですね。
(プロフィール)
徳井健太(トクイ・ケンタ)
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期・吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。テレビ番組『ピカルの定理』などを中心に活躍し、最近では芸人やお笑い番組を愛情たっぷりに「考察」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル『徳井の考察』も開設している。
『敗北からの芸人論』
新潮社/発売中/1430円(税込み)
https://www.shinchosha.co.jp/book/354441
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