平成ノブシコブシ徳井健太が考える「正解なき」芸人道―東野幸治でさえ敗北した道
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テレビで見ない日はないあの人気芸人も、賞レースでぶっちぎりの強さを見せるあのコンビも、かつて「敗北」を経験し、そこから這い上がってきたから今がある――そんな芸人の生き様を、鋭く、優しく、熱く綴り、連載時累計700万PVを突破した芸人コラムがこの度『敗北からの芸人論』(新潮社)として書籍化された。成功者に見える芸人たちの「敗北」にあるもの。同業者である芸人を「評論する」ことの苦悩は? 奇人キャラから腐り芸人、そして今“喫茶店のマスター”へ、変化を続ける平成ノブシコブシ徳井健太が考える「正解なき」芸人道とは。
ーー『敗北からの芸人論』拝読しました。「あの芸人さんの魅力はこういうところにあったのか」という発見や共感はもちろん、一般社会にも共通する悩みとその解決のヒントがたくさんありました。
徳井:ありがとうございます。
ーー同業者である芸人さんを「論じる」ということに難しさはなかったですか?
徳井:いやー、どうかな。最初はボケのひとつだったんです。『333 トリオさん』(テレビ朝日系)というジューシーズ、パンサー、ジャングルポケットの3組が出演しているテレ朝の番組の特番で、ノブシコブシがゲストで出演することになったんですね。その時に、3組に対して「もっとこうした方がいい」みたいなアドバイスをガンガン言ったら、当時演出を担当されていた人が気に入ってくれて。元々「誰が何を言ってるんだ」っていうボケから始まったのもあって、(芸人を論じることに対して)特に深い思い入れはあまりなかったかもしれないですね。誰もそんなことやってる人はいなかったし、ただ意表を突いたというか。
ーーそれまでも「もっとこういう風にやったらいいのに」と思いながら芸人さんたちを見ていたのですか?
徳井:はい。それは自分たちにも思ってましたよ。特に若手の頃は、吉村は「売れたい」と思い、僕は「何より面白いと思われたい」と思っていた。吉村はなんとしてでもM-1の決勝に行きたがっていましたが、僕は決勝に行くためだけのネタを作っても意味がないと思っていたんです。
ーー意味がない。
徳井:僕は「芸人さんに面白いと思われるネタをやり続けていたら、10年後、20年後に必ずチャンスが来る」と思ってました。でも吉村は「そんなに待ってられないし、とっととM-1に出て、優勝しなくてもいいから爪痕を残してテレビに出られるようになれば、その後は売れる自信がある」と強く言っていた。どっちも極端な発想なので、当時はもめ合ってましたね。
ーーどちらもわかります。売れたいし面白いと思われたい。
徳井:似てるように見えて意外と真逆なんですよね。
ーー面白いと思われる方が、より時間はかかると。
徳井:そうですね。かっこつけてる、というのもありますし。世間に寄り添ってないので。
ーータイトルが『敗北からの芸人論』というのもすさまじいです。ただ最後まで読むと「負けを認めることって、全然負けじゃないんじゃないか」という気持ちになりました。
徳井:おお、それは嬉しいですね
ーーこのタイトルに込めた意味をお伺いしたいです。
徳井:負けたり、失敗した時にそこで諦めるのが一番簡単だし楽だけど、恥を忍んでもう一歩先に進むところが、面白い芸人が出て来る瞬間だと思うんです。世間的にはM-1の優勝やゴールデンのMCを勝ち取る……というのがかっこいいと思われていますよね。でもM-1に出ようとして、諦めて、その後どうするっていう時がみんなあって、今売れている人たちはそこを頑張ってきたんだよっていうのを伝えたかった感じです。
ーーみんな「負け」から這い上がってきた。
徳井:俺は勉強してこなかった人間ですが、大人になってから東大のメカニズムを聞くと、東大の中で戦わされるっていうじゃないですか。その次も政治家になって戦わされたり。でも学生の時にはそんなこと習ってない。「いい大学に行けば幸せが待ってる」って聞いてたのに「ええ!?」って思うんじゃないですか。当然落ちた人はその場で負けになってしまうし。でもそこで言い訳してない芸人さんが売れていると思う。負けを知らない人はいないから。
ーー本で取り上げている芸人さんには、そういう共通点がありますか?
徳井:そうですね。東野さんみたいな、あんなに面白くて売れてる人でも「ダウンタウンはいないものと思って生きてきた」って言いますから。俺もびっくりしました。東野さんがそう思うっていうことは「負けたことがない」って思ってる人はただ単に超鈍感というか、本当は負けているのに気づいていないだけなんじゃないかって思う。ここで書いている人は敏感な人が多いし、「負けた後にどうするか」っていうところを考えてきた人たちだと思います。
ーー「負けた後にどうするか」。
徳井:そういう人じゃないと尊敬できないというか、かっこよく見えないんですよね。藤井(西澤注:平野歩夢選手のことかなぁ)君とか、あと5、6年しないと人間味を感じない。勝っている時って確かにかっこいいんですけど、あまり深みがないように感じてしまうんですよね。ケガやトラブルがあってもうダメだ……って諦めかけたところから金(メダル)を取るというストーリーが一番グッとくるんで、そういう気持ちを強めに書きましたね。
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