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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 学生バイトの“大義名分”はいつ生まれたのか

学生バイト大国ニッポンの社会史――いつ「大学で学べない社会勉強」という大義名分は生まれたのか

奨学金などの経済支援策でバイト時間は減らない

――データや研究を元に「奨学金や授業料免除などの経済支援策はアルバイト時間を減らす効果をもつとはいえない」と書かれていて、これも衝撃でした。

岩田 それくらいバイトが「すべての学生がやる」文化になっている。別にお金はいくらでも持っているに越したことはないわけですから、学業に支障をきたさない程度の多少のバイトならやめる理由にはならない。おそらく、もはや日本でアルバイトに従事する学生の割合を減らすことは難しい。

 もっとも、50年代に学生に対する奨学金制度を充実させていたら、現在バイトする学生は少なかったと思います。当時は勉強したくてしかたがない学生がたくさんおり、バイトに時間を取られることを良いことだとは思っていなかった。そのタイミングでバイト学生の数が増えなければ、そういう価値観が今に至るまで継承されていたでしょうから。

――そもそも多くの国で学生のアルバイトは一般的ではないですよね。特に経済的な理由以外では。

岩田 ほかの国との詳細な比較検討はできていませんが、各種報告書などを見る限り、ここまで遊び感覚でのバイトが広まっているのはおそらく日本だけだと思います。アメリカではパートタイム労働が必要な学生は勉学の支障にならないよう学内で雇うといったことが行われています。つまり、経済的支援の一環としてバイトが位置づけられている。

 これは大学教育と労働市場のあり方とも関係していると思います。英米や中国などの学生は良い職業に就くにはものすごく勉強しなければならず、大学での成績が就活時に重視される。ところが、日本では大学で一生懸命勉強したかどうかよりも、どの偏差値帯の大学に入ったかのほうに重みがある。だから、大学に入るとバイトに勤しんでしまう。

――アルバイトの歴史の研究から、最近の学生とその保護者世代に対して何かアドバイスをお願いします。

岩田 「なんのために今のバイトやってるの?」ということを家族で話し合ってみるといいと思います。私が学生に今しているバイトを訊くと、ルーチン化された単純な肉体労働が比較的多いんですね。学生は「職業訓練になる」「将来の仕事に役立つ」と言うけど、「みなさんは今しているような単純労働に就職するんですか?」と訊くと、「いや、大学に来たからには知的労働に就きたい」と。「じゃあ、役に立たないじゃない」と思うわけです。

 それでも単純労働のアルバイトをするなら、学生が意義を考えた上で取り組むべきです。そのために保護者や大学側が学生に対して情報提供したり、示唆を与える手助けをする。大人のほうが世の中の仕事についてはよく知っていますし、アルバイトの職種だって多くの学生の視野に入っていないものまで知っている。ですから例えば、学生の関心や将来就きたい仕事を踏まえた上で「こういうものもあるよ」「こういう視点から取り組んでみては」と提示する。

 学生側も漫然とではなく、「なぜ自分は今このバイトをしているのか」を両親や大学の先生を説得できるくらい考えてほしい。そうすれば就活にも、その後の社会人生活においても意味のある経験になるはずです。

 

岩田弘三(いわた・こうぞう)

教育社会学者。1957年富山県生まれ。名古屋大学教育学部卒。同大学院教育学研究科後期課程教育学専攻単位取得満期退学。文部省大学入試センター研究開発部助手などを経て、現在、武蔵野大学人間科学部教授。博士(教育学、東北大学)。専攻は高等教育論・教育社会学。著書に『近代日本の大学教授職』(玉川大学出版部)、『子ども・青年の文化と教育』(共編著、放送大学教育振興会)、『教育文化を学ぶ人のために』(共著、世界思想社)など。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2022/04/03 23:22
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