『ナイトメア・アリー』ギレルモ・デル・トロらしいアートセンスとノワールの融合による独自の世界観
#映画 #ギレルモ・デル・トロ
ギレルモ・デル・トロによる『フリークス』へのリスペクト
今作は「ナイトメア・アリー 悪夢小路」(1946)を原作としていながらも、キャラクター造形においては、ある人物へのリスペクトが無視できないものとなっている。
それは、多数の障がい者を出演させたことによって、物議を呼び、上映禁止が多発したカルト映画『フリークス』(1932)を手掛けた監督、トッド・ブラウニングだ。
デル・トロは、オールタイム・ベストの中に『フリークス』を入れている。また、彼がこれまでに携わってきた作品や、好きな作品に関するコレクションだらけの家を撮影・書籍化した『ギレルモ・デル・トロの怪物の館 映画・創作ノート・コレクションの内なる世界』(DU BOOKS)でも、『フリークス』に登場する小頭症のシュリッツの模型を彼が大切に所持していることがわかる。
コンプライアンスからか、シュリッツやクー・クーのように直接的には描けなかったキャラクターも、今作ではカメオ的にチラリと映り込む。
表現の自由は年々変化していくが、2015年の時点でもかなり攻めていたドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー 怪奇劇場』の直接的な表現が今ではさらに難しくなっていることが、今作を観ると理解できるだろう。
日本でも『ニッポンの、みせものやさん』(2011)というドキュメンタリー映画が公開されていたが、同作においても、そこでしか生きられない人々の集合体、疑似家族の様子が浮き彫りにされていた。時代にそぐわないとして消されてしまうと、居場所を失っていく人々もいるということだ。
他者から見れば“人道的”でないことも、もしかすると、当事者にとってはそれこそが“偽善”ではない真の“優しさ”になり得ることもあるだろう。
デル・トロも、単にカルト映画の監督だから好きというわけではなく、トッド・ブラウニングの作品を通じて、そういったメッセージを受け取ったからこそ、リスペクトしているのだと思われる。
消えゆく文化のひとつを描きながらも、その中にある人間ドラマをノワールのような演出で浮き彫りにした作品である。
ちなみに、今作に数秒間映り込むスネークマン(軟体人間)を演じているのは、『アメリカン・ゴッド・タレント』や日本の番組『謎解き冒険バラエティー世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)でも話題となったパフォーマー、トロイ・ジェームズだ。彼は、デル・トロの作品『スケアリーストーリーズ 怖い本』(2019)にも出演している。
最後に、蛇足かも知れないが、筆者はドラマ『エイリアス』(2001~06)で、主人公の目立たない友達・ウィル役を演じていた頃からブラッドリー・クーパーの出演作品を欠かさず観続けているだけに、確信をもって言えることがひとつある。
それは今作が、クールかつミステリアスでありながら、どこか人間的な弱さが隠しきれない、そんなクーパーの魅力を最大限まで引き出した作品であるということだ。
『ナイトメア・アリー』
■監督:ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
■キャスト:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、
トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、
ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、デヴィッド・ストラザーンほか
■全米公開:12月17日
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■公式サイト:https://searchlightpictures.jp/nightmare_alley
■公式Facebook:https://www.facebook.com/SearchlightJPN/
■公式Twitter:https://twitter.com/SsearchlightJPN
■公式Instagram:https://www.instagram.com/SearchlightJPN/
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