『ナイトメア・アリー』ギレルモ・デル・トロらしいアートセンスとノワールの融合による独自の世界観
#映画 #ギレルモ・デル・トロ
『パンズ・ラビリンス』(2006)や『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)など、独自のアートセンスによる唯一無二の世界観を構築するギレルモ・デル・トロの最新作――第94回アカデミー賞において、作品賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞の4部門にノミネートされたことでも話題となっている『ナイトメア・アリー』が、2022年3月25日から公開されている。
今作の原作『ナイトメア・アリー 悪夢小路』(1946)は、1947年にも『悪魔の往く町』として映画化されているが、今回は映画版のリメイクというより、原作の“再映画化”というべきだろう。しかし、アプローチとしては、47年版に寄り添ってもいる。
当時、表現の規制(ヘイズ・コード)によって描き切れなかった、ダークで異質感漂う世界を、デル・トロ独自のアートセンスによって再構築されたとでもいうべきだろうか。
現在公開中の『ウエスト・サイド・ストーリー』も、同じようなアプローチがされているといえる。原作舞台の再映画化でありながら、61年の映画版にもリスペクトは忘れていない。
どちらも当時、規制によって満足のいく表現ができなかった作品だが、現代ではコンプライアンスという新たな自主規制の中で、いかにオリジナルのテーマを描くかを模索した様子が見てとれるという点でも酷似しているのだ。
特に、『ナイトメア・アリー』が扱っているのはカーニバルだ。舞台が1939年~40年代のため、障がい者を見世物にする非人道的なスタイルが物議を呼び、問題視されてきた“見世物小屋”の一側面も兼ね備えたアプローチになっている。
当時のカーニバルは、アンダーグラウンドで違法な集合体というひとつの側面を持つかもしれない。でも、本当におそろしいのは、一見綺麗にコーティングされている世界の方が、闇に塗れていることだ。そうしたリアリティを追及するうえで、カーニバルは不可欠な舞台設定だったとも言える。
さらに因果応報というべきだろうか、人間はどれだけ背伸びしても、身の丈にあった環境でしか生きられない。ペテン師は、いくらあがいてもペテン師の辿る末路に向かってしまう……。どちらの点においても、究極の皮肉を描いている。
【ストーリー】
成功への野心溢れる青年スタンがたどり着いたのは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座。そこで出会った読心術の達人から技を伝授されたスタンは、“感電ショー”で人気者だったモリーを誘ってショービジネスの世界での成功を目指して大都会へと旅立つ。やがてスタンは人を惹きつける才能と天性のカリスマ性を武器にトップのショーマンとなり、豪華なホテルのステージで上流階級の人々から拍手喝さいを浴びる日々を送る。だが、心理学博士のリリス・リッターとの出会いが、スタンの運命を大きく変えていく。さらなる野望のその先に待ち受けていた、想像もつかない闇とは……。
※次のページからネタバレを含みます!
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