コンテンツツーリズムに各地方は対応できてるか?「聖地巡礼」できる街できない街
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昭和スターの記念館が続々閉鎖の意味を考えるべき
――そもそもコンテンツツーリズムの過去の成功例というと、どんなものがあるんでしょうか?
小笠原 何を持って成功例とするかが難しいところではあります。こうした話でよく名前があがるのは『北の国から』(北海道富良野市)、『坊っちゃん』(愛媛県松山市)、『男はつらいよ』(東京都葛飾区柴又)などでしょうか。世代を超えて長く愛され続けているモンスターなコンテンツですよね。逆に言うと、これくらいのとんでもないロングヒットでないと、マス向けにツーリズムとして成立させ続けるのは難しいんです。今はその観点を無視して、地域がメディアに取り上げられたからコンテンツツーリズムで町おこしだ! と取り組むようになってしまっている。「本当にそのコンテンツで10年20年とお客さんを呼び込めますか?」という点を、一旦立ち止まって考える必要があると思います。
――たとえばNHK大河ドラマですと、作品ごとにゆかりの地に記念館や資料館ができます。昨年の『青天を衝け』では「深谷大河ドラマ館」(埼玉県深谷市)と「渋沢×北区 大河ドラマ館」(東京都北区)の2つができて、いずれも昨年2月から年内いっぱい、あるいは今年1月で閉館しています。調べたところ、大河ドラマの記念館は、放送期間に合わせて1年程度で終了するのが慣例のようです。10年20年と長期的な継続を最初から見越していないのかもしれないですね。
小笠原 大河ドラマはほかのドラマに比べれば放送期間が長いですが、翌年になって新しい作品が始まれば、おのずと関連事項のメディア露出は減っていきます。比例してお客さんも減っていくわけですから、無理に長く続けないそのやり方は非常に真っ当だと思います。コンテンツツーリズムの最大の敵は、“時間の経過”なんです。最近、昭和のスターたちの記念館の閉鎖が続いているのをご存知ですか?
――石原裕次郎や加山雄三の記念館が相次いで閉鎖したとニュースになっていましたね。
(東洋経済オンライン 2021年11月14日掲載「「昭和のスターの記念館」閉鎖が全国で相次ぐ理由」)
小笠原 大学で教えているとわかりますが、今の学生さんは本当に昭和のスターを知りません。それは当然で、どれだけ偉大でヒットした人や作品でも、未来永劫その知名度が続いていくわけではない。時間を超えられるコンテンツは限られているんです。『男はつらいよ』を例に取ると、渥美さん主演の新作はありませんが続編がいまだにつくられたり(2019年公開『男はつらいよ お帰り 寅さん』)、過去作品が膨大に存在して今でも新たな観客が見返せるようになっているから人気が継続しているわけです。熱烈なファンと映画会社や山田洋次監督はじめ関係の皆さん、そして地域の熱意と努力の賜物です。
もちろん、初速は大事です。初期の段階でヒットしなければ興行的にすらどうにもならない。その上で周囲を巻き込んで持続する力が重要であり、関係地域はそこを見極めていかなければなりません。
――何かあれば身軽に対応できる環境をつくると同時に、安易に飛びつかない判断も必要だ、と。
小笠原 時間の経過とコンテンツツーリズムという点に関して、最後に触れておきたいのがダークツーリズムです。人類の過去の重い歴史がある地域は学びや新たな経験を得られる地として結果的にそれが重要な観光資源になっていく時代が来ています。一方で、それを見に来た人に対して次の付加価値をどう提供していくのか、その機会を考えて用意している地域が持続的でいられる。そしてこういうダークツーリズムに拒絶感を示す地域も存在したり、一筋縄では行かないことも感じます。このあたりは日本における第一人者である金沢大学・井出明先生の著書に詳しいです(『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』(幻冬舎新書)ほか)。
結局のところ、当たり前の利益を拾えるようにちゃんと用意していないと、チャンスがやってきたときにものにできないということです。時間の経過という遠くを見据えながら、むやみに自治体が参入する前にきちんと判断し足元を固めていかなければなりません。素晴らしいコンテンツの価値は長く保たれてゆくことでしょう、しかしそれを地域振興に用いようとするならば、時間の存在を無視することはできません。地域の大切な文化や歴史と同様に、地域のために観光や地域振興のためにと大きく事業を打ち出すだけではなく、むしろ小さい規模で確実に守ってゆくことも必要になってくるかも知れません。「聖地巡礼」「コンテンツツーリズム」というワードや概念が定着した今だからこそ、慎重に再考すべきときが来ているのだと思います。
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