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白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」【6】

コンテンツツーリズムに各地方は対応できてるか?「聖地巡礼」できる街できない街

コンテンツツーリズムに各地方は対応できてるか?「聖地巡礼」できる街できない街の画像1
「鎌倉殿の13人」大河ドラマ館 公式サイトより

 いま日本の各地で「地方創生」が注目を浴びている。だが、まだ大きな成功例はあまり耳にしない。「まちおこし」の枠を超えて地域経済を根本から立て直すような事例は、どうしたら生まれるのだろうか?

 本企画では、栃木県小山市にある白鴎大学で、都市戦略論やソーシャルデザイン、地域振興を中心とした研究を行う小笠原伸氏と、各地方が抱える問題の根幹には何があるのかを考えていく。

 第6回目は、昨今一般化したコンテンツツーリズム、あるいは「聖地巡礼」が、どれくらい地方に浸透し、対応できているかなどについて聞いた。

◇ ◇ ◇

――前回の本連載では、コロナ禍が収束した後に来るであろう一大観光ブームについて取り上げました。観光と地方創生の文脈でいうと、アニメや映画、ドラマ、ゲーム等をフックにした”コンテンツツーリズム”が近年すっかりおなじみになったと思います。小笠原先生は各地の自治体や関係者の方と話す機会も多いと思いますが、コンテンツツーリズムというもの自体への現在の理解度は手触りとしてどの程度なのでしょうか?

小笠原 現場レベルでは浸透していると思います。急に自分たちの地元に多くの人が来るようになったとき「これはきっとメディアの報道かアニメなど何かの作品で取り上げられたな」とすぐ理解して対応に動くようになってきた。自治体や地元財界のトップ層の方たちが、完全に分かっているとは思いませんが「そういう現象がある」ということは、周知され尽くしていると感じます。

――「聖地巡礼」という言葉は『らき☆すた』(2007年)を嚆矢に広がっていき、コンテンツ産業においては2010年代には定着していました。対応する現場の当事者の方たちまで浸透するのに15年くらいはかかったわけですね。

小笠原 私が住む北関東は刀や槍を収蔵する博物館や資料館が多いんです。ですので、ゲーム『刀剣乱舞』(2016年~)がブームになり始めた頃、普段は全然人が来ない資料館をある朝開けたら急に、行列ができていて関係者たちがびっくりする、というようなことが起きていました。多くの場合、最初は地元の人たちは「なんでこんな田舎の町に」と困惑していて、そうしたお客さんたちをすくいあげることができていなかった。コンテンツが扱っているものを見に来た方たちが、目的を果たしたらすぐに帰っていってしまって、残念ながらその街自体の魅力を知ってもらうところまでは至っていなかったと思います。

――コンテンツツーリズムに関する論文やレポートを読んでも、「いかに地元を好きになってもらって、リピーターになってもらうか」が課題だと指摘されています。小笠原先生はその点に関してアドバイスを求められた場合、どのように答えていますか?

小笠原 まずは「やってきた方たちがお目当てのものを見た後で、お茶したりご飯を食べたりできる場所はありますか?」と聞きます。

――お茶やご飯、ですか。

小笠原 資料館や博物館は、観光地化されていない場所に建っていることがあります。せっかく遠路はるばるやってきた人が目的を果たした後に「お腹空いたな、何か食べよう」「記念に何かお土産を買って帰ろう」と思っても、周囲に何もなかったりするんです。これは非常にもったいないですよね。地元の人は来訪する人々が目的とする資源を必死に推したがるのは当然にしても、準備していないとそれ以外になかなか手が回らないのです。飲食や買い物というのはそうした集客があったときに副次的な効果としてまっさきに出てくるものです。でも慣れていない土地だと、その準備ができていない。せっかく人がやってきても、情報の消費だけして街に1円も落としてもらうことができないんです。

“コンテンツツーリズム”というと何かすごいプロジェクトをぶちあげるイメージかもしれませんが、そうではありません。シンプルに、「街に突然何千人というお客さんが来たときに、満足して帰ってもらえる環境が準備できてますか?」ということなんです。それがなければ「楽しかった」と思ってもらうことはできませんよね。案外、この点が伝わっていないように思います。

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