『TITANE／チタン』車とイタす女性の超変態な“純愛”映画!!

ジュリア・デュクルノーが描きたかったのは、愛の物語

　多様性が重視される世の中だが、恋愛対象は、同性であっても異性であっても人間同士であるのが“常識”とされてきた。

　しかし、エッフェル塔と結婚したエリカ・ラ・トゥールや、フランスにある橋のポン・デュ・ディアブルと結婚したジョディ・ローズなど、恋愛対象を人ではなく、物体とする“対物性愛”という言葉もあるように、少数派であっても、物に愛を見出す人もいるのだ。

　“対物性愛”を描いた日本の作品には、2021年公開の『恋する遊園地』（2020）がある。同作は、エリカ・ラ・トゥールの物語に着想を得て制作された、遊園地のアトラクションに恋をする少女の物語である。

　一方、今作も対物性愛を描いたものであるには違いないのだが、少し毛色が違っており、ホラー色も強く感じられる。ところが、監督自身も今作を最終的にラブストーリーに思える物語にしたかったと語っているように、最終的にはラブストーリーだったと、妙に納得させられてしまう説得力を持った作品であることは間違いない。

　主人公のアレクシアは、幼い頃に交通事故で頭にチタンプレートを埋め込まれてしまう。だが、彼女にとって、その出来事は不幸なものではなく、笑みがこぼれるほどの幸せな体験だった。愛する車の存在に近づけた喜びに満ちていたのだ。

　そんな彼女が大人になり、さまざまな人種の異性や同性と関係を持とうとするものの、誰にも”ときめかない”。車以上の存在となる人間と出会えない。次第にそのイラ立ちが、彼女を殺人の衝動へと結びつけてしまう。

　アレクシアの行動は、かなり狂気的ではあるが、それは彼女にとっての愛への探求でもある。

　常識では考えてはいけないし、そもそも常識とはなんなのか……ということだ。私たちは当然のように、恋愛対象が人間であるべきだと、メディアや教育によってインプットされている。そのため、車と人間の性交シーンなど、理解できないかもしれないが、その感覚自体が固定概念だと見切りをつけてしまえば、今作は素直に愛の物語であると理解できるはずだ。

　一方、車は決して愛を与えてはくれない存在だ。車が“自分を愛してくれない”人のメタファーであるなら。共同生活相手のヴィンセントの“極端に屈折しながらも純粋な愛”によってアレクシアの気持ちに変化が生じ、“行きずり”の関係依存から脱却する。

『RAW～少女のめざめ～』では、カニバリズムに目覚める少女を描きながらも、表現したかったのは、少女から女性への変化を描いた、イニシエーションだったのではないか。とするならば、今作は女性から母になる不安と怖さ、そして決意が描かれたとも捉えられる。そう考えると、前作よりもストレートに描かれているようにも感じられる。

『TITANE／チタン』
監督:ジュリア・デュクルノー（『RAW 少女のめざめ』）
出演:ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル
原題:TITANE/2021 年/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/108 分/字幕翻訳:松崎広幸/R-15+
© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020
配給:ギャガ、ロングライド

バフィー吉川（映画ライター・インド映画研究家）

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』（つむぎ書房／2021年）。

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