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テレ東は人の欲望を解放する? 定食、デパート…そして“ハコ”

テレ東は人の欲望を解放する? 定食、デパート…そしてハコの画像1
『真夜中のデパート自由に使えたら』(テレビ東京)公式Twitter(@mayodepabotti)より

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(3月20~26日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

シソンヌ・長谷川「定食は、その人の履歴書です」

 空港にいる外国人に何をしに日本に来たのかたずねる。行く先々で充電をおねがいしながら電動バイクで目的地までたどりつく。ヤギをつれて歩き雑草に困っている人の除草をおてつだいする。

 そんなワンテーマの番組に印象的なものが多いテレビ東京のバラエティ。今回は、そんなテレ東のワンテーマ系バラエティから2本とりあげたい。

 まず、20日の『黄金の定食』。今年1月から放送されている番組である。出演者は長谷川忍(シソンヌ)と、大橋和也(なにわ男子)だ。番組の内容はいたってシンプル。長谷川と大橋の2人が、町の定食屋で注文に悩む、というものだ。この日は、銀座の三州屋という店をおとずれていた。

 が、ただ定食を頼むというシンプルなミッションながら、長谷川と大橋はおおいに悩む。まず、メニューを見て悩む。壁一面に貼られたおびただしい数のメニューの札。今回の店の品数は、番組でこれまでおとずれた店のなかで最多だという。それを前に、2人は当然悩む。

 次に、事前に店に通いつめたというスタッフや、10年以上この店に通う常連たちがおすすめを紹介する。この情報が、メニューを見て「これにしよう」と考えていた2人の感情を別角度からゆるがす。長谷川は言う。

「番組見てるかたは、われわれ2人が悩んで定食たべてるだけの番組だろと思うかもしれないですけど、ずっとわれわれどれを選択しようかやってるんで、結構、家かえってからぐったりするんですよ」

 この番組では基本、2人がそれぞれメインメニューとサイドメニューを1品ずつを頼むルールになっている。このルールが、さらに出演者を悩ませる。メニューの数が多ければ多いだけ、その組み合わせパターンはさらにふくれあがるのだ。

 悩ませるのはメニューやその組み合わせだけではない。大橋と長谷川、一方の選択がもう一方を悩ませる。長谷川の選んだメニューに大橋の意志がゆらぎ、その逆も……というぐあいにお互いの苦渋の選択が反照しあい、苦悶の連鎖を生んでいく。自分の欲望は、いつだって他人の欲望に刺激されるのだ。

 あれもこれも頼みたいという制限のない欲望が、選択を悩ませるのか。あれを選べばこれが選べないという制限のある選択が、欲望をさらに刺激するのか。欲望と選択のループ。その出口のみえない螺旋のなかで悩む2人の表情。テレビを見るほうもまた、そんな苦悶の表情に自身の心情を重ねあわせ、欲望と選択のループに迷いこんでいく。

 しかし、決断しなければならない。最後には注文を確定しなければならない。今回も2人はおおいに悩んだすえ、長谷川は銀ムツ煮付定食と刺し身盛り合わせを、大橋は天然ブリ刺し身定食とカキフライをオーダーした。

 そして、食す。この表情がいい。「自分の選択は間違いではなかった」というかのようなおいしそうな表情は、閉じられていたかに見える欲望と選択の無限ループからの脱出口だ。その解放感。どちらか一方は食べさせないというルールではなく、どちらも必ず食べられるというルールの設定が、見る者のカタルシスを増幅する。

 また、落ちついた風貌の中年芸人と、活きのいい若いアイドルという、年齢や立場、キャラクターのちがう2人が、同じメニューのまえで”悩む者”、そして”解放された者”として対等になる感じもいい。定食をあいだに挟んで一時的に出現するそのフラットな関係性に、いつのまにか視聴者もつらなっていく。

「いかに自分が欲深い人間かそうじゃないかっていう、定食の頼みかたを見ればわかります。定食は、その人の履歴書です」

 長谷川はそう語る。12回限定で放送予定のこの番組。残りはわずか。長谷川と大橋は、何を選ぶのだろうか。どんな履歴書を書き残すのだろうか。

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