『アダム&アダム』もし、過去の自分と出会えたらどんな言葉をかけるだろうか?
#Netflix #宮下かな子 #宮下かな子と観るキネマのスタアたち
もしも過去に戻れるのなら、小学生からやり直したい。せめて上京したての大学生の頃に、この仕事を始めたばかりのピカピカの頃に戻りたい。昔書いた日記を読み返しながら「あの頃こうしてたら」と考えることがよくある。過去に捉われていても何も変わらないし、なんと意味のない思考回路だなぁと思うが、誰にでも一度は過去をやり直したいと思ったことがあるのではないだろうか。
たとえ過去をやり直すことができなくても、せめてその頃の自分に何か一言言ってあげられたら。そんな私の妄想をくすぐる作品が、今年3月からNetflixオリジナルとして配信された。ショーン・レヴィ監督の『アダム&アダム』だ。
今作は、昨年公開された私の大好きな映画『フリーガイ』の主演ライアン・レイノルズとショーン・レヴィ監督の再タッグということで、公開を待ち望んでいた作品。2050年からタイムトラベルしてきた主人公が、2022年を生きる12歳の自分と共に世界を救うミッションに立ち向かう、SFアクション映画になっている。
タイムトラベルというと、パラドックスを考慮して過去の自分に会わないようにするのが原則だが、この物語は2人のアダムが協力してミッションに挑むという新鮮な物語構成。突然現れた男に戸惑いを見せるキッズアダムだが、自分と同じ特徴をいくつも持っている目の前の男を、すんなり未来の自分だと受け入れられる飲み込みの速さも面白い。同一人物であるという手がかりは、怪我した傷痕だったり、愛犬の呼び方、冷蔵庫の閉め方、身につけている物などがあげられているが、心に抱えた問題も、昔も今も変わらないままだった。
実はつい最近、役柄で初めて20~34歳までの年齢幅を演じることになった私。どう変化をつけようかと悩み、役者の先輩に相談してみると、
「20歳の時の自分も、30代後半になった今も大して変わらないよ。」という言葉を頂いた。
6年前——20歳の頃の自分を思い出してみると、服装も、身体のお肉のつき方も今と随分異なる。ちょうど舞台『転校生』の稽古が始まる直前で、初めて役名と台詞をもらえたことにドキドキしていた頃だ。
「自信を持って、大きな声を出せたら大丈夫だよ」という、役者としては超初心者級のアドバイスを受けていたスロースターターぶりで、不安があると蕁麻疹が出たり泣いたりしていたので、さすがにそんな症状は出なくなった自分をみて「よくぞここまで人前に出ることに慣れたものだな」と我ながら思う。自分の心配や不安で頭がパンパンだったあの頃は、目の前のことに精一杯。今やっと、周囲や自分を客観視できるようになり、確実に視野範囲が広がった実感がある。
あの頃の自分を思い返すと、この6年でも大きく変化したように感じるが、物事に思い切り飛び込めない小心さは、今も変わらず私の中にあって。自分の長所も短所も、その度合いが多少変化するだけで、まっさらになくなるものではないんだな、と思った。
確かに先輩の言葉どおり、がらりと変化しているのは外見くらいであって、中身はそれほど変わらないものなのかもしれない。『アダム&アダム』を観ながらもそう確信することができて、演じる上での基盤が何となく見えた気がした。
きっと私はこれからも、タイムトラベルを夢見て意味のない思考回路を繰り返すのだと思うが、変えられない自分自身を丸ごと受け入れる努力をしようと思う。変えられない自分自身を認めて、それでも少しずつ前に進んでいる自分を肯定してあげること。それができたらもっと視野が広がるのではないと思う。壮大なSF映画の世界観とスリリングな展開。自分自身と対話しながら是非楽しんで頂きたい。
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