U-NEXT独占配信『エイドリアン』、妻を殺害した犯人と夫の対話も実録した壮絶生涯
#しばりやトーマス #世界は映画を見ていれば大体わかる
誰もが知る名作『ウェイトレス』の作者!
苦難の末に制作、完成したのが遺作となった映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』(06)だ。エイドリアンが制作・監督・脚本のみならず衣装、小道具、セットまで手掛けた手作り映画。
南部の田舎町でレストラン「ジョーのパイ」のウェイトレスをしているジェナ(ケリー・ラッセル)の特技はパイ作りで、いつか全米パイ・コンテストに出場すること。しかし夫のアールは彼女を奴隷かなにかぐらいにしか思ってなく常に束縛し、彼女がコンテストに出るための旅費として溜めたチップを巻き上げ(高給取りの銀行マンなのに)文句を言えばぶん殴る、とんでもないDV男。挙句妊娠してしまった。子供ができたなら態度を改めて可愛がってくれるかも? ところがアールは
「女ってのはガキができるとガキの方ばかり可愛がって、夫をないがしろにするんだ。お前もそうだろう。だからガキが生まれても俺に一番の愛を注いでくれるなら、産ませてやってもいいぜ」
なんちゅう言い草! 男尊女卑が徹底している南部では、離婚も中絶もありえない。でも別れても、レストランのチップだけじゃ生活できない。そんな彼女の前に産婦人科医で既婚者のポマター医師が現れ、夫とは正反対の性格の彼がこのろくでもない世界から救いだしてくれるかもしれない……という都合のいい夢を見る。
絶望や愚痴をウェイトレス仲間ぐらいにしか打ち明けられないジェナは、パイでそれを表現する。「不倫で夫に殺されるパイ」はチョコ生地でベリーをぐちゃぐちゃにし、「不倫をやめられないパイ」にはカスタードにバナナを入れようとして……やめておく。
これが、エイドリアンが散々な目に遭わされてきたハリウッド製のロマンティック・コメディなら、医師が白馬の王子様で彼女を攫って夢の王国に連れていくだろうが、そんな風にはならない。ジェナは残酷な現実に打ちのめされる。
結局、赤ちゃんを産むことになるジェナは出産の直前まで「赤ちゃんなんて産みたくないのよ」と叫ぶ。この赤ん坊さえいなければ1人で逃げられたかもしれないのに。しかし産まれてきた子供を抱きかかえた彼女は、愛する子供のために強く生きることを決意。自身が妊娠8カ月の時に書き上げたという話には、エイドリアン自身の出産への不安と女性の自立、挑戦を阻む業界に抗った彼女の苦労がにじみ出ている。
死後、公開された映画は絶賛され、事件から10年経った2016年にはミュージカル化しブロードウェイでも上映された。女性の自立を阻み、枠に収めようとする社会と戦ったエイドリアンの夢は、叶っただろうか?だが劇場前に集まった観客はエイドリアン・シェリーの名前を訪ねても「誰?聞いたことないな」今あなたが見ようとしている舞台の原作者ですよ!
アンディは亡き妻の残した作品が語り継がれているのは嬉しいけれど、エイドリアンの名前が知られていないことが悲しくてしようがない。だから妻の姿と作品を成長した娘と世界に伝えようとした。
『ウェイトレス』が出品されたサンダンス映画祭に参加したアンディは妻の遺灰を撒いたそうだが、その時、会場にいたハーヴェイ・ワインスタインの肩にかかった、というエピソードが痛快。ワインスタインはエイドリアンの主演作品を公開するとき、「彼女のヌードをもっと増やせ!」とハートリー監督に命じたが「そんな映画じゃない」と断られた。その後、長年のセクハラ疑惑が取りざたされ業界を追われることに。
「彼女が隣で笑っている感じがしたんだ」
とは夫アンディの弁である。
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