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『ウェディング・ハイ』でさらなる躍進を遂げたバカリズム脚本の誠実さ

『ウェディング・ハイ』につながるバカリズム脚本の誠実さ

 これまでのバカリズム脚本作品を振り返ると、コメディとしての「強固」な構造に気づかされる。それは、作品全体を引っ張るドラマと、その場その場のギャグ、それぞれが乖離していないことだ。その場では短絡的な笑いに思えたことでもドラマそのものを進めているし、ドラマがあってこその笑いも成立している。適当なギャグの連発でドラマが止まってしまうことはごく少なく、だからこそ「コメディ」になっているのだと改めて実感できた。

 ドラマ性が薄く、それこそどうでも良さそうな日常が続く『架空OL日記』も面白く観られるのは、日々懸命に働きながらも、愚痴を仲間内でぶつけ合ったりする、ごく普通の人々の姿が誠実に描かれているためでもあるだろう。むやみやたらにふざけるのではなく、「共感」こそが笑いにつながるという構造を作り手自身が理解し、そこに誠実にアプローチしたからこその内容になっていた。

 また、いずれの作品でも、「モノローグ」を多用している。思考そのものはまともで普遍的なので、やはり共感を呼ぶと同時に、バカリズムのクセの強い独特な言語センスが発揮されているのでクスクスと笑える。加えて『ウェディング・ハイ』は主人公だけでなく、結婚式の参列者それぞれがモノローグで余興に賭けるアツい想いを語るので、それぞれの「周りとの思考のズレ」もまた笑いを呼ぶようになっていた。

 さらに『ウェディング・ハイ』では、これまでのバカリズム脚本よりも「どうでも良さそうに思えた会話も伏線として活かす」面白さも格段にパワーアップしていた。ゆるい会話劇ややり取りそのものが面白い一方で、(一定の区切りのあるドラマが元であったりするためか)後の展開やクライマックスとはそれほど関係なく思えてしまう場面もあったのだが、その欠点も今回は完全に解消されていたのだ。

 何より、ピンポイントでの大爆笑を狙うよりも、堅実にドラマや人間味溢れるキャラクターを積み上げたからこそのコメディを構築したバカリズムの脚本を、改めて賞賛したいのだ。『ウェディング・ハイ』では、ピン芸人として活動していた経験があり、しかも同じく共感を主体としたコメディを手がけてきた大九明子監督との相性もバッチリだったからこそ、その最高傑作が生まれたと言えるのではないか。

 最後に余談だが、『ウェディング・ハイ』の劇中では、同性カップルが式場の見学を楽しんでいる様が、さりげなく描かれていたりもする。それを大げさに見せびらかすのではなく、「当たり前」の日常として描かれる様も感慨深いものがあった。そうした細やかなところに上品さを感じられる、今の時代に合う価値観が描かれているのも、作り手が誠実に作品に向き合った証拠と言えるだろう。

『ウェディング・ハイ』でさらなる躍進を遂げたバカリズム脚本の誠実さの画像2
C)2022「ウェディング・ハイ」製作委員会

3月12日(土)ロードショー

映画『ウェディング・ハイ』
脚本:バカリズム
監督:大九明子s
キャスト:篠原涼子、中村倫也、関水渚、岩田剛典、中尾明慶、浅利陽介、前野朋哉、泉澤祐希、佐藤晴美、宮尾俊太郎、六角精児、尾美としのり、池田鉄洋、臼田あさ美、片桐はいり、皆川猿時、向井理、高橋克実
音楽:高見優
主題歌:東京スカパラオーケストラ「君にサチアレ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
配給:松竹
C)2022「ウェディング・ハイ」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/03/26 19:00
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