サ上とロ吉が “戒め”から見出したスタンスの哲学
#サイプレス上野 #ロベルト吉野
結局は何も変わらないし音楽を止めることはない
――話をアルバムに戻すと、今回参加している客演陣は同世代が中心ですね。
サ上 今まではLeon(Fanourakis)とかCarzみたいな若手と一緒にコラボすることが多かったけど、今回はそれよりも酸いも甘いもわかってるやつと一緒にやりたいなって。まず「RAW LIFE feat. 鎮座DOPENESS」は、鎮座が「アングラデラ」っていうユニット、俺は「TITLE-B」っていういうユニットを組んでた高校生の頃から知り合いで。最初はライブで一緒になって、ソウルズ・オブ・ミスチーフ「93 ‘Til Infinity」のトラックを使ったのがかぶって、ちょっとバチバチしたり。
ロ吉 その後に上野くんが組んだDREAM RAPSとアングラデラって、殴り合いのケンカしてませんでした?
サ上 ワタとテラはマジで態度悪かったから、普通にケンカになってたけど、俺と鎮座はケンカせずに仲良かったし、「2人でなんかやるか」って話してたぐらい。でも、やっぱり仲間は見捨てられないから、って一緒にやることはなかったんだけどね。それが今回客演で迎えることになったら、鎮座がすごくシリアスなことを書いてきてくれたのは本当にうれしかった。いわゆるひょうひょうとした鎮座のキャラとは違う熱い内容で、しかもサビも考えてきてくれて。本当にこの曲にちゃんと向き合ってくれたんだなって。
――漢 a.k.a. GAMIはいかがでしょう?
サ上 「I’m a ¥ Plant」って言ってる漢くんと、「お金は大事だけど、それだけじゃない」っていうテーマと共に、ちょっとバックインザデイができるような曲を改めて作りたくて。しかもキャッチーなオケに漢くんを引きずり込めたのは面白かった。何十年も関係性があって、あの人がすごくファニーでギャグセンの高い人なことはわかってるから、このトラックでも引き受けてくれるだろうとも思ってたし。
ロ吉 このトラックで漢さんがラップするってだけでも、RECの前からウケてましたね、俺は。
サ上 この曲を作ってるときも、漢くんに救われまくってたんですよね。
――というと?
サ上 さっき話した亡くなった兄貴が高田馬場に住んでいて、その遺品整理で高田馬場に通ってたんだけど、18歳でクイズ番組『カルトQ』の「ヤクザ映画」回の本戦に出場して、杉作J太郎さんと戦うようなやつだから、そういう映画の資料とか、今日着てる東陽片岡先生のTシャツとか、サブカル系のものが山ほど出てきて。そこで兄貴の人生を知ると同時に、「どうすんだこれ……」って落ち込んだりもして。でも、同じくあの周辺に住んでる漢くんともよく会って「まあ、なんかあったら連絡しろよ」って軽く言ってくれたりしたのは、本当に救われたんですよね。
――そして、「万華鏡 feat. TARO SOUL, KEN THE 390」のタロケンとは、とにかく関係が深いと思います。
サ上 それぞれとは客演はたくさんしてるんだけど、タロケンとしては初のコラボで。このトラックができたときに「これはタロケンかな」ってピンときて、すぐ連絡したら彼らも二つ返事でOKしてくれたんですよね。それで細かい設定とかテーマを話さずに、俺のプリプロを送ったら、タロウは家族のことを、ケンは歳を取るほどよくなってくるっていう、みんな「40になってもラップを続けてる自分」っていう内容で返ってきたから、意図の理解もとにかく早くて。
――しかもライミングで曲が進む展開も、足並みが揃っていて。
サ上 フロウじゃなくて、バッチリ韻をおいていく感じの曲にしたいなって。でも俺らはやっぱりそういう世代でもあると思うし、もう夢中で作ったというか、夢の中で作った曲って感じですね。それぐらいパッとできた。
――夢の中といえば、今回のアルバムのトリとなる「STILL 184045」は、日本語ラップクラシックであるNaked Artzの「夢」と同じネタ使いですね。内容的にはサ上とロ吉の所属するクルー:ZZ Productionの人間のケツを叩くような曲で。
サ上 はっきり言っていまZZで動いてるのは、俺たちとDJ KENTA、おまけで謎みっちゃんだけだなって。みんな人生設計が変わったり、環境が変わるのは仕方ないけど、根底には「184045」があるでしょ、今一度、俺たちの気持ちを忘れずにいきましょうっていう。もちろん、サ上とロ吉の根底も184045だし、最後にその屋号というか象徴みたいなワードを入れたら、もっと作品自体も、そしてみんなへのメッセージとしてもポジティブになるんじゃないかなと思ったんですよね。
――では、締め的に今後の動きも教えてください。
サ上 スチャダラパーのBoseさんが家族で「チキンラーメン」のCMに出るようなミラクルが起きるわけで、先輩がそういう光景を見せてくれるのは本当にうれしいし、喜んでるだけじゃなくて、自分たちもそうならないとって思ってる。そのためにも、これからも面白いことを続けていくっていう感じですね。あと、MACCHOくん(OZROSAURUS)の言葉じゃないけど、ヒップホップに卒業はないと思うんですよ。だって入学した覚えがないから(笑)。自然に始まって、続けてきたことだから、それを止めることもないと思うし、それはサ上とロ吉もそう。俺が死んでも吉野は続けるだろうし、その逆も然りだと思うんですよね。それから周りの仲間がいるから。最近も、またワタが丸出しにしてたから、やつに向かってボールを投げたら、うまい具合にフォークになって、タマキンに直撃したんですよね。
――タマキン全力投球が。……マジなんの話?
サ上 結局「何も変わらない」ってことを言いたかったんだけど(笑)。俺らが音楽を作って、それを楽しんでるやつ、子どもと一緒に聴くやつ、踊ってるやつ、キンタマにフォークが命中するやつ……そういうやつらがいる限り、俺らは音楽を止めないっていうか。
ロ吉 俺もタンテを触るのは変わらないし、またアルバムを作ったことで新しいルーティンを組み立てると思うんですよね。それを続けていくだけっすね。
サ上 ライブのスキルも、歳を重ねることでクオリティが悪い意味で安定したり、落ち着くことはないと思っていて。今のヒップホップで俺たちみたいにわざわざレコード使ったり、ライブのためにターンテーブルルーティン組むなんて、本当に無駄じゃないですか。
――「コスパ」悪いよね。
ロ吉 でも、オケだけ出して終わりなんて面白くないっすよ。
サ上 この前も戸塚でストリートライブがあったんですけど、ヤサ(スタジオ兼集合場所)で組んだときは大丈夫だと思ったルーティンが、実際客前でやったらちょっと冗長かなって。それでライブ後に吉野と「あの部分、もうちょっとタイトにしたい」って話したら、その翌日のLIBROくんの主催ライブにゲストで出るときには吉野も調整してきて。俺らのライブはその繰り返しなんですよ。完璧に満足できるルーティンが存在するかはわからないけど、でも俺たちなりに納得できるまでは、何度も何度もやり直すし、それを続けないと、ライブをやる意味はないんじゃないかなって。
ロ吉 1MC&1DJである意味もないすからね。
サ上 それがお客さんに喜ばれるかはわからない。俺たち的には最高のルーティンを組んでも、ビックリするほど盛り上がらないこともある。でも、それをやらないと俺たちの気が済まないし、オヤジだからって止まるんじゃなくて、熟成はするけど成長もしなきゃね。
[プロフィール]
サイプレス上野とロベルト吉野(さいぷれすとうえのとろべるとよしの)
2000年に〈横浜ドリームランド〉出身の先輩(上野)と後輩(吉野)で結成した1MC+1DJのヒップホップグループ。通称〈サ上とロ吉〉。“HIP HOP ミーツ all グッド何か”を座右の銘に掲げ、これまでにヒップホップ濃度を薄めないパフォーマンスで多方面から支持を集める。
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