サ上とロ吉が “戒め”から見出したスタンスの哲学
#サイプレス上野 #ロベルト吉野
サイプレス上野とロベルト吉野の3年ぶりとなるフルアルバム『Shuttle Loop』。20年以上のキャリアを経て、2013年リリースの『TIC TAC』収録の「LIVE GOES ON」の中で、自分たちを先輩と後輩をつなぐ“中間管理”と言っていた彼らも立派なシーンの重役クラスにはなっているだろう。その意味でも、今回のアルバムに通底する「ヒップホップとは自分にとってなんなのか」「プロとしてシーンに身を置く意味とは」「自分にとって生きるとは」といった、人生論やスタンスをテーマにした楽曲性は、そのキャリアがあってこそ説得力を増すものになっている。しかし同時に、そういった内容をしかつめらしく大げさに表現するのではなく、軽やかに、そしてどこかセンチメンタルに表現することで、これまでのサ上とロ吉作品同様、リスナーに「圧」をかけるのではなく、「作品と共に進む」ような感覚を覚える。「2度目のファーストアルバム」とも言える作品だ。
――今回のアルバムですが、オープニングとなる「Shuttle Loop」で「オヤジ2人のエデュケーション」というリリックがありますが、これが作品全体のキーのひとつになっているんじゃないかと。
サイプレス上野(以下、サ上) でも、そこまで深い意味があるっていうわけでもないかな。俺たちもいい歳にもなったしっていう。
――ことさらに年齢を強調するわけではない?
サ上 うん。オヤジはオヤジだし、若いヤツは若いし、っていうぐらい。
――高い肉はおいしいし、みたいなストレートな感じで。
サ上 いや、安い肉も美味いよ。
ロベルト吉野(以下、ロ吉) 結局、腹が減ってればなんでもうまい。
一同 ガハハ。
――余談はさておき、そもそもヒップホップは、歳を重ねても「まだまだ自分は若いぜ!」っていうことを言いがちな文化ですよね。
サ上 そうっすね。
――「オヤジ」を肯定的に使うRHYMESTERの「働くおじさん」も、そこには自虐的な部分があったし、確か宇多丸さんからそのサジェストに対して、MUMMY-Dさんは「おじさんって言いたくない」って最初は拒否したっていう話も聞いたことがあって。だから、ヒップホップにおいて、父親や尊敬されるべき年長者という意味ではなく、世代的な意味として「オヤジ」という言葉を、自虐的な意味ではなく、さりとて過度に肯定的でもない、フラットな意味合いで使うのは結構珍しいような気がして。
サ上 やってることは昔から本当に変わらないんですよね。「少年イン・ザ・DRM」にも名前が出てくる、ブックレットでも全裸になってるワタの無修正写真を、事あるごとに高木くんに送るじゃない?
――10年以上に渡って無修正写真を送られ続けられる身としては、そろそろ通報しようかと思ってます。
サ上 ただ本当にそういうことで、若いときからやってることは変わってない……っていうか「若い」とか「歳をとった」とは関係ないことをやってる。でも「もう、お前らベテランだよ」って言われることも多くなってきたから、「俺らおじさんなんだな、じゃあそれでいいか」っていう。だけど気持ちは変わらないし、服装だってずっと変わらないんだよな、と思う一方で、最先端のトラップビートに乗って、ワッショイワッショイやるのも、それもまたヘンだと思うんですよ。それは身の丈に合ってない。例えばCarzみたいに若いやつとも遊ぶけど、でも若作りはしないっていうか。
――その「身の丈」というのは、サ上とロ吉の一貫したテーマとも言えますね。
サ上 世代的な部分もあると思う。俺たちよりも前の世代の先輩たちは、ブリンブリンを身に着けて、高級車に乗って、それをスワッグしてっていうのがひとつのテーマだったと思うんだけど。
――USと概念を直結させるためにも、そして日本でヒップホップドリームを見せるためにも、その手法は重要ではあったと思いますね。
サ上 でも00年代の中盤に登場した、MSCやSCARSとかは、貧乏で生活が苦しくて、そのために仕方なくハスリングをしなくちゃいけないっていう、等身大としてのストリートライフを歌ったし、俺たちもそういう内容こそ歌わなかったけど、世代的には考え方だったり、発想は似てる。だから、背伸びしてもしょうがないっていう意識が根底にあるし、背伸びしなくたって周りの仲間と遊べていれば楽しいっていうのは、今でも変わらないと思うんですよね。
――その意味でも、今回のアルバムは、サ上とロ吉の人生論だったり、人生訓のような部分が強いと思う。でも「人生最高!」「俺の生き様を学べ!」みたいな、大仰で大層な立ち位置ではないですね。それよりも「自分たちはこう生きてきた」っていうミクロな視点が中心にあるし、それは「おもしろおかしく」によく表れていますね。
サ上 あの曲は「MONEY feat. 漢 a.k.a GAMI」が9Sari CafeでRECだったから、歌舞伎町のホテルに泊まってたんですけど、隣の部屋が若い連中で何人もゾロゾロ出入りして大騒ぎしてるわけですよ。廊下でカップ麺食ったりとか。
――乱暴狼藉の限りを尽くして。
サ上 「あれが噂のトー横キッズか……」と。でも、あいつらはあいつらで、いろんな状況によってああいう生活になってると思うし、それでも面白おかしく生きてはいるんだよなって思ったんですよ。当然、人に迷惑をかけるのはダメだけど、そうじゃない限りは面白おかしく生きたほうが正解だなと。
――とはいえ、「少年イン・ザ・DRM」のエピソードは人というか、ドリームランドに迷惑かけてばっかりだけどね。
サ上 時効時効。あとは兄貴の件もあるかな。真ん中の兄貴が昨年末に急死してしまって、そこでそういう人生観みたいなものを改めて考えたのかもしれない。
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