スパコン「富岳」で抗がん剤の開発に進展 ヒトの全遺伝子2万個を分析
#がん #富岳
東京医科歯科大学と富士通はスーパーコンピュータ「富岳」を使い、肺がんの治療薬に耐性を持つ原因となる遺伝子を1日以内に特定することに成功した。これにより、患者一人ひとりに対応した効果的な抗がん剤の開発が期待できるようになる。
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/57171_ext_04_6.pdf
この報告によれば、がんの分子だけに作用するように設計された治療薬は、患者への投与を続けるとその薬剤に対して耐性を獲得したがん細胞が増殖し、再発することがある。
このように、がんの発生や悪化の直接的な原因となる遺伝子変異を獲得した細胞群が変幻自在に異常な振る舞いをするがん耐性獲得のメカニズム解明には、精緻なデータと解析技術が不可欠。
薬剤開発やそれまでとは別の既存薬を使った臨床治験では、薬剤効果が期待される患者を見つけることが重要だが、個人や臓器における遺伝子やその発現量などにより薬剤効果が異なり、複数の遺伝子の発現量を組み合わせたパターン数は1000兆通りを超える膨大な数になる。
富士通では判断根拠の説明や知識発見が可能なAI技術「Wide Learning」を用いて、特徴的な因果関係を持つ条件を網羅的に抽出する「発見するAI」を開発していたが、ヒトの全2万個の遺伝子を対象とした網羅的な探索には、通常の計算機で4000年以上かかる試算であったため、処理の高速化が課題となっていた。
両者は、「富岳」上にヒトの全遺伝子を実用的な時間で分析できるよう、条件探索と因果探索を行うアルゴリズムを並列化し、実装することで、計算性能を最大限引き出した。
さらに、「発見するAI」を活用し、統計情報に基づき薬剤耐性を生み出す条件となりうる有望な遺伝子の組み合わせを抽出することで、1日以内で網羅的な探索を実現する技術を開発した。
そこで、がんの細胞株から得られたDNAから複写されたRNAの発現量データにこの技術を適用した結果、これまでの研究成果では知られていない、肺がん治療薬の耐性の原因を示唆する遺伝子の新たな因果メカニズムを抽出することに成功した。
これにより、患者一人ひとりに対応した効果的な抗がん剤の開発の可能性が高まった。
東京医科歯科大学では、「今回開発された技術は、薬剤開発の際の重要な興味であるバイオマーカー探索に資する技術となる」としている。
新規薬剤開発の成功の鍵は、効果が期待される患者を見つけ出して臨床試験を行うことにあり、今回開発された技術のように、薬剤の効果が期待できる人を予測するマーカー(遺伝子変異や遺伝子発現情報)があれば、その人だけを対象として臨床試験を行うことで、「臨床試験の経費を大きく削減し、その成功確率を高めることができる」とコメントしている。
両者は今後、今回開発された技術を用いて、遺伝子の発現量や変異のデータに加え、時間軸や位置データを組み合わせた多層的、総合的な分析を実施し、薬効メカニズムやがんの起源の解明などの重要課題における発見の手掛かりを提示する研究を加速する。さらに、創薬、医学分野における実験研究の現場と連携する。
東京医科歯科大学は今回開発した技術を用いて、がんをはじめとする難病の攻略法の研究を推進する。富士通はマーケティングやシステム運用、生産現場において複雑に交錯する因子を発見し、意思決定を支援する取り組みを進める。
個々人のがんに効果のある治療薬を見つけ、処方する、あるいは治療薬を開発することができれは、がん治療薬のオーダーメイド化も可能になり、がん治療が飛躍的に進歩する可能性を秘めている。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事