お笑い事務所ライブの構造的問題と芸人の引退―勘違い芸人が生み出される理由
#ライブ #所属事務所 #馬鹿よ貴方は新道竜巳
多くのお笑い芸人が所属している事務所(プロダクション)に所属すると、俗に“事務所ライブ”呼ばれる事務所が公認で行っているイベントに参加する事になります。そしてそのライブにはマネージャーなどが見に来ているので、自己アピールの場にもなっており、時にはテレビ関係者なども来て、そこからテレビの仕事に繋がる芸人もいます。
そして事務所ライブの多くには、1軍、2軍、3軍などとランクワケされたライブがあり開催日程、ネタ時間も変わります。上位のランクに上がるほど有名な芸人さんがいて、ネタ時間も長くやれ、集客も多いライブでネタをやれることになるんです。1軍のライブには業界関係者やお偉いさんも来ます。早く売れるにはできるだけ早く1軍のライブに出演し、ネタを沢山やらなければならない――というのがあるんですね。これが事務所ライブの表向きの内容です。
さてこの事務所ライブには、可能性を上げてくれる半面、闇もあります。
まずそのひとつが、集客はできるけれども、テレビに出られるレベルに達していない若手芸人の存在です。
事務所ライブでいつも1軍のライブに出ていて、凄くウケているのですが、全くテレビに出る事がない芸人さんも多数おります。芸歴が短くネタでは他の芸人さんに勝てないので、自分たちでチケットの手売りなどをしてお客さん(自分たちのファン)をかさましをすることで、1軍のライブに出続ける芸人さんがいるんです。
事務所ライブはお客さんが評価ポイントを持っている場合が多く、自分たちのお客さんを呼べれば呼べるだけポイントが増え、上のライブに勝ち上がれる形になります。もちろんこれだけなら、それも頑張りのひとつとしてとらえられればいいのですが、残念ながらこれだけでは済まないのが、事務所ライブの難しいところです。
芸歴が短く実力がまだ追いついていないのに、集客だけで1軍のライブに居座り続けると、その事務所ライブでMCなどをすることに。そうすると「勘違い」をしはじめる芸人さんが出てくるんです。プライドだけが高くなってしまうんですね。
事務所ライブこそが自分の実力だと思い込み、自分が集客してカサマシしていることを忘れ、自分たちがうけない(=自分たちで集客してない)よそのライブに出演することを嫌がります。半面、自分が都合よくうけるライブばかりには出て、また事務所ライブにそのお客さんを呼び人気をカサマシするのです。彼らは自分が面白く見えるライブばかりに出ている事を「セルフプロデュースだ」と思い込むのですが、実際は実力不足な現実から目をそむけているだけな場合があります。
こういった芸人さんは大抵、いずれ頃合いが来たら引退していなくなります。なぜなら数少ない身内の前だけで笑いをとって事務所ライブの1軍にい続けるだけの時間しか歩んでいないからです。そしてM-1グランプリになると、1回戦か2回戦で止まってしまうのです。
一方で、お笑いライブは集客するのが大変で、会場を満席にするのも容易ではありません。そんな中でお客さんを集める芸人がいると事務所は喜んでくれるのです。事務所が喜んでくれる上に、1軍のライブにも勝ち上がり、毎回うけている場合は「俺の下積みは間違っていない」と自信を持ってしまい、気づけば狭い劇場に足を運ぶ身内ファンが面白いと思いそうな事ばかり考えるようになってしまいます。いつも来る30人ぐらいが喜ぶことばかりをネタに取り入れてしまうんです。
要するに友達を笑わせるみたいなノリになってしまい、もちろんライブで笑いは起きているけれど、周りの芸人さんはなにひとつ笑ってくれていない……舞台袖に芸人さんが全く集まらないタイプの芸人になってしまいます。
同業者は先見の明を持っており、ほかの芸人たちが舞台袖に集まってネタを見られる芸人は近々売れると言われています。身内ノリの芸人には、そういったリスペクトがなくなってしまうんですね。
たしかに集客力のある芸人さんは貴重で、外部のライブのゲスト枠に呼ばれたりもします。ただそれは、売り上げ補填の存在なのに、そこでもさらなる勘違いをしてしまい。いつのまにか1軍の中の本当に実力のある芸人と、自分は横並びの実力なんだと勘違いしたまま、ただただ時間だけがすぎていく事になります。
仮にファンがいて、可愛いファンの彼女ができ、妊娠して、結婚して、2人目の子供ができ、引退する場合になったとしても、それはそれでいいのかもしれません。なぜなら、事務所に所属して1軍のライブに出続け綺麗な奥さんと結婚出来、就職して、お金にならない時間を芸人に不用意にかけなくてすむという面では、売れてこそないが勝ち組と言われればそうかもしれないと思います。
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