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しずる村上純「お笑いの永遠のテーマは春木屋のラーメン」芸人半生記、“変化”と“不変”のマリアージュ

しずる村上純「お笑いの永遠のテーマは春木屋のラーメン」芸人半生記、変化と不変のマリアージュの画像1
しずる村上純(撮影=日高恭悟)

 しずるの村上純が、3月25日に初の自伝的エッセイ『裸々(らら)』(発行 ドワンゴ/発売 KADOKAWA)を上梓した。

 2003年に相方のKAƵMAとしずるを結成後、その独特の世界観によって広く知られてきた村上。芸人としての半生を率直に綴ったことで見えてきたものとは。

自分の話を聞いてほしい、人の話を聞きたい。だからお笑いをやっている

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――『裸々(らら)』というタイトルどおり、酸いも甘いもネガティブなことも、さまざまな感情をさらけ出した内容になっていますよね。自分の芸人人生について、ここまで素直に書ききることができたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

村上純(以下、村上):コロナ禍がなかったら、ここまでむき出しにモノを言ったり考えたりはしてなかったと思います。というのも、コロナ感染拡大の影響で仕事のスケジュールがなくなったりしていた中、「何かしないと」と思ってnoteに書き始めた文章がこの本になっているんですよね。

 芸人として何もすることがないような状況になったのって、本当に十数年やってきて初めてのことだったんですよ。目の前にお客さんがいなくなって、自分がやったことが「ウケてる」か「ウケてない」かわからない状況にもなって。

――コロナによって突然、自省する時間が設けられたわけですね。

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村上:僕がお笑いを始めた頃って「芸人は素の部分を見せない、ネタの裏側を見せない」ことが良いみたいな風潮が強くて、僕も例に漏れずそう信じているところがあったんですけど、コロナ禍になってから「“ファニー”な笑いと“興味深い”笑いの違いはなんだろう」みたいなことを自分一人で考えたり、芸人同士で話し合うことも増えて。そのうちに、僕らが本当に考えていることをそのままさらけ出すのも良いかもしれないと思うようになったんです。

――コロナ感染拡大以降、バッファロー吾郎Aさんと一緒に、阿佐ヶ谷姉妹さんや男性ブランコさんなど、さまざまな芸人を招いて「お笑い」をテーマに率直に語ってもらう『聞くシリーズ』(トーク配信)も行ってらっしゃいますよね。

村上:僕ら芸人は普段、開かれた舞台で大人数のお客さんを目の前にして笑わせることを求められているので、30秒間に1回くらい笑い声が起こらないと焦ってしまうような感覚が身体に染み付いてくるんです。

 でも、noteや『聞くシリーズ』のように受け手の反応がリアルタイムに返ってこない場では、すぐに笑いが起こらないことをやるのに自分も耐えられる。そういう状況で、話し手の芸人たちの核の部分にじっくり迫っていくようなアプローチの面白さに気が付いたんですよね。

――特にしずるは『爆笑レッドカーペット』(2007年に始まったショートネタお笑い番組、フジテレビ系)のような、非常に限定的な持ち時間内でマスに向けた笑いが求められる番組をキャリアの出発点とするコンビなだけに、受け手の反応については人一倍敏感なのではないかと思います。

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村上:そうなんですよね。『裸々』にも書いたように、ネタ番組はお客さんの笑い声が起こらない時間が続けば、次は呼んでもらえないかもしれないというシビアさが強いです。

 そういう環境にいたからこそ、「ずっと笑わせないといけない」という価値観を持ってやってきたんですけど、コロナ禍で自省したことによって「僕って、自分の話を聞いてほしいし、人の話を聞きたいからお笑いをやっている人間なんだな」ということを再認識したんですよ。人とコミュニケーションを取るためのツールのひとつがお笑いという感覚で。

――じっくりと時間をかけて表現するからこそ、相手に伝えられるものや起こりうる笑いがあり、それを求めていたんだと。

村上:まさしくそうです。もちろん、お笑いの“美学”ってものは芸人の数だけあると思うんですけど、「お笑い」というテーマを通じて自分のことを伝えたり、人のことを知ったりということが、僕にとっての一番の理想形なんだと思います。

 僕はもともと「人気者になりたい」「より多くの人にウケたい」という思いからお笑いの道を志したわけなんですが、芸人をやっていくうちに「自分が本当に面白いと思っていることをやる」という方が、自分にとっては価値があるんだということがわかってきて。

 そういう、自分が心の底から思っているオリジナルな感情って、わかりづらいからこそ時間をかけて届けないといけないものなんですよね。

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――『裸々』では、『爆笑レッドカーペット』で番組サイドから用意された「甘酸っぱい青春コント」というキャッチコピーがしずるのブレイクにつながったと分析されていましたね。一方で、こういうわかりやすい“記号”を背負うことへの葛藤も抱いていたと。

村上:「甘酸っぱい青春コント」というキャッチコピーによってしずるが多くの人に知っていただいただけに、そのわかりやすい“記号”にネタを合わせにいってたところもあって、がんじがらめになってしまった時期もありました。求められているものを提供することで、テレビに出続けようとしていましたし。

 でも、同時期に池田(相方のKAƵMA)が書いたネタで出た『エンタの神様』(2003年に始まったお笑いネタ番組、日本テレビ系)では、「ビターな相乗効果」っていうキャッチコピーがつけられたんです。

「甘酸っぱい青春コント」とぜんぜん真逆の“記号”がつけられたなと思っていたのですが、池田は「ビターな相乗効果」に応じるようなネタを作りにはいかなくて。あいつは「絶対この笑いに自信があるから、求められていなくてもウケる」と思ってネタ作りをしていて、僕は「その場にアジャストすることで自分の話を聞いてもらいたい」と思ってネタを作ってたんです。

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