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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > ZAZYが辿り着いたフリップ最終形態
元芸人がR-1 2022 分析!

ZAZYが辿り着いたフリップ最終形態「PCでも紙芝居」に培ってきた自信と誇りを感じた

続いては女芸人No.1決定戦THE W2020チャンピオン「吉住」さん

 R-1グランプリ2年連続決勝進出。唯一の女性芸人ということで、ほかの芸人と比べると、いささか華やかさを感じた。

 今回のネタは「普段は物腰が柔らかく聖人のように穏やかな女性が、芸能人の不倫報道に気がふれるほどブチ切れる」というもの。今まで何度か彼女のネタを見たことはあったが、このネタが1番面白い。正直今大会で僕は一番面白かった。嫉妬するほど台本が良く、ネタの入り、ふり、説明、盛り上がり、オチ、全てが上手くできている。ただし台本が上手くできているからといって、必ずしも笑いが起こるかというとそうではない。

 上手い台本には2種類あってひとつは「日本エレキテル連合」さんの代表作「未亡人朱美ちゃんシリーズ」のような台本だ。

 このネタは【だめよーだめだめ】という言葉を軸にどれだけ笑いが起こせるかを追求する大喜利のようなネタ。だめよ~だめだめが出てくるだけで笑えるので、このネタを見たときも嫉妬したのを覚えている。

 そして今回の吉住さんのネタ。台本自体の出来が良く、聖人の気がふれるという題材が軸となっており【だめよーだめだめ】のような出るだけで笑いが取れるような言葉はなく、純粋に台本の面白さを上手く伝えなければいけないというとても繊細なネタなのだ。

 このネタの難しさはそれだけではない。1番のポイントは普段は聖人のような人間が発狂するというところ。聖人と狂人の2役を演じなければならない。しかも2重人格のように切り替えるのではなく、ひとりの人間が感情で変わるという表現をするのだ。並大抵の演技力ではない。これまでも吉住さんは演技力に注目されることはあったが、今までは気がふれる演技をするとリアルになってしまい笑いが減ることがあった。だが今回は気がふれてもどことなくリアルにコミカルが足されて笑いやすくなっていたのだ。

 彼女はこの1年でさらに演技力を向上させてきたのだ。タイミングが違えば今回、優勝できていたかもしれない。諦めずにまた来年も頑張ってほしい。

続いてその見た目からも異彩を放つギャガー芸人「サツマカワRPG」さん

 近頃テレビで見ることも多くなってきたサツマカワRPGさん。テレビでは復活ステージを勝ち上がってきたYes!アキトさん、さらにどんぐりたけしさんとのギャグ芸人3人組によるユニット「怪奇!YesどんぐりRPG」で見ることが多い。

 サツマカワRPGさんは今のようにテレビに出る前から知っていて、当時から大きな声と勢いのあるギャグで客席を笑いの渦に巻き込んでいた。ただしそれは普通のお笑いライブでのこと。今回は賞レース、しかもピン芸人しかいない、そして極めつけはすでにギャガーがネタをしてしまった、というギャグ芸人にとってはとても不利な状況だ。

 正直勝ち目は無いだろうと思っていた。

 だが、僕の心配は杞憂にすぎなかった。ネタ前のVTRで彼はこう言っていた「ギャグの羅列で落ちる年もあって、一本筋の通ったものを今年はやってみようかなって」と。その言葉通り、ネタはギャグの羅列ではなく、一般的な芸人のような1本ネタだった。

 ネタの内容は「放課後の体育館裏に呼び出して告白しようとしているけど、相手は部活の大会が近いからそれどころではない」というもの。何か相手にいうたびに断られその都度「そっか。大会近いもんな。〇〇する時間があったら練習したいよな」と繰り返す。そのセリフに温度感はなく、ロボットのように同じリズムで同じように発する。これは吉住さんのときに書いた日本エレキテル連合さんと同じシステムだ。

 お客さんは「そっか。大会近いもんな」というセリフ出てきたら笑うようになる。システムといい、言葉のセンスといい、演技といい、とても面白かった。点数的にはあまり高くはなかったが、その理由としては後半になるにつれて「そっか。大会近いもんな」が効果を発揮しなくなっていたからだろう。セリフ自体をモジったりニュアンスを変えても良かった。さらには相手の部活が何なのかというのが最後の最後に出てくるのだが、一体何の部活なんだろうと気になってしまう人はネタに集中出来なくなってしまう。その辺りを早めに解消してあげればもっと笑いやすかったかもしれない。

続いては2年連続R-1グランプリ準優勝「ZAZY」さん

 2年連続ファイナルステージ進出、そしてラストイヤー。何としてでも優勝を手にしたいだろう。僕は前年度初めてネタを見てフリップ芸でここまでボケを畳みかけることが出来るのかと感心し、それと同時に腹筋が痛くなるくらい笑ったのを覚えている。

 見た目の奇抜さとは違いネタに対してはコツコツと真摯に取り組んでいることは容易に想像できる。見るたびにアップデートしてきたZAZYさんが今回はどんなネタを見せてくれるのか楽しみだ。

 スタートしてすぐに驚いた点が2つあった。ひとつはその見た目。金色の羽を生やし、肩から胸にかけてはアメフトの防具にはまるでサグラダファミリアを思わせるようなオブジェ。前年度とは比べ物にならないほど派手である。

 そしてもうひとつはフリップではなくPCとモニターがセッティングされている。ZAZYさんのネタは、リズムとそのボケの多さが命である。フリップだとどうしても紙がうまくめくれずにリズムが狂ったり、ボケの多さゆえ枚数が多くなり四面フリップでやらなければいけなくなるが、PCを使うことにより手元のキーボード操作でリズムも安定し、見る場所がモニターひとつになることでお客さんがネタに集中できる。

 これがZAZYさんが辿り着いたフリップの最終形態なのだろう。

 ちなみにPCだからと言ってアニメーションなどの動画は使用しない。あくまでも紙芝居形式。そこに今まで培ってきたものへの自信と誇りを感じた。

 ネタ自体はめちゃくちゃ面白く、相変わらず腹筋が痛くなるくらい笑った。ただファーストステージもファイナルステージもPCに集中してしまっている為、フリップのときには見えていたZAZYさんの表情がPCだといっさい見えない。さらにフリップのときは「なんそれ!」で突っ込んでいた部分がキャラクターの表情と音で突っ込んでいる為、「なんそれ!」ほどの勢いがないように思えた。やはりZAZYさんの代名詞でもある「なんそれ!」はもっとあっても良かったのではないだろうか。

 ただ僕が審査員だったとしたらファイナルステージはZAZYさんに票を入れていたのは間違いない。

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