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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 錦鯉とSMA芸人の「お笑い大河ドラマ」

錦鯉の優勝エピソードに「お笑い大河ドラマ」を見た! SMA芸人たちとコミュニティの産物 

お笑い界をカオスにしている人「みなさんのおかげで錦鯉は今回、優勝できたと思ってます」

 28日の『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)のエピソードも興味深かった。

 この日、「激レアさん」として登場したのは、ソニー・ミュージックアーティスツ、通称SMAで芸人部門を統括する部長だ。番組内で「ヒライさん」と紹介されていた彼は、SMAに芸人部門を立ち上げた人でもある。

 奥田民生や木村カエラといったミュージシャンや、二階堂ふみや成田凌といった俳優を擁するSMA。そんな事務所にヒライさんがお笑い部門を立ち上げたのは2004年12月だという。現在所属するのはハリウッドザコシショウやアキラ100%、錦鯉やバイきんぐ、コウメ太夫といった面々だ。華やかなミュージシャンや俳優のなかに、裸やおじさん、スキンヘッドや白塗りといった芸人が並んでいる形となる。

 ただ、そんな芸人たちはこれまで、数々の賞レースで結果を残してきた。『M-1グランプリ』『キングオブコント』『R-1グランプリ』のお笑い賞レースで3冠を達成したのは、吉本興業のほかにはSMAだけ。そんなヒライさんに番組がつけた異名は「お笑い界をカオスにしている人」だ。

 番組によると、ヒライさんの働きかけでSMAにお笑い部門ができたとき、芸人の募集に年齢制限をつけなったらしい。そのため集まってきたおじさん芸人や、他の事務所になじめなかったはみ出しものたち。そのなかにいたコウメ太夫が、『エンタの神様』(日本テレビ系)でブレイクした。そしてそのコウメマネーで、事務所の劇場がつくられたという。

 その劇場では、芸人たちのネタを客が審査するランキング制度が取り入れられた。客に評価されることで、アウトローな芸人たちのネタが変化してくる。そのうち、ザコシショウが劇場で管理人のように生活するようにもなった。彼の存在もあり、芸人たちのあいだで横のつながりが培われていく。そんななかから生まれた賞レース王者たち――。エピソードがわかりやすく整理されているところもあるのだろうけれど、さながらお笑い大河ドラマのようだ。

 そんなお笑い大河ドラマのクライマックスは、2021年のM-1での錦鯉の優勝だ。その前年にM-1決勝に進出し、メディアでの露出も増えていた錦鯉。そんな多忙なスケジュールで、2021年の錦鯉はネタが仕上げきれていない状態だったという。

 心配したヒライさんはM-1決勝の3日前に錦鯉を呼び出し、ザコシショウや小峠英二(バイきんぐ)といった賞レース王者や決勝の常連たちのまえで、M-1決勝の予行演習を開いた。終了後には、芸人仲間からネタへのアドバイスもあった。その助言のひとつに、漫才の最後に「ライフ・イズ・ビューティフル」のひと言を入れたらどうか、と小峠からの助言もあったらしい。ヒライさんは語る。

「3日前に小峠と打ち合わせをするという話だったんで、それだったらいろんな頭脳があったほうがいいと。マツモトクラブとか呼んで、みんなでネタづくりをした。みなさんのおかげで錦鯉は今回、優勝できたと思ってます」

 私たちは、創作物は個人による独創が大きいと思いがちだ。もちろん個人の発想も無視できないが、同時に、その発想はコミュニティのなかで生まれてくるという面もある。完全なゼロからの創造はありえない。芸人のネタであれば、過去の先輩芸人たちがつくってきたネタの系譜があり、周囲の芸人たちのネタとの差別化がある。お笑いとは別のコミュニティの知識を援用するパターンもあるだろう。

 特定の個人のものというよりも、コミュニティのなかから生まれてくる。――もちろん、この話も先述の一般向けの認知科学の啓蒙書(『知ってるつもり』)からの受け売り、知ったかぶりだ。著者はこう書く。

「個人は生きていくために、自らの頭蓋のなかに保持された知識だけでなく、他の場所、たとえば自らの身体、環境、とりわけ他の人々のなかに蓄えられた知識を頼る。そうした知識をすべて足し合わせると、人間の思考はまさに感嘆すべきものになる。ただそれはコミュニティの産物であり、特定の個人のものではない」

 この記事も「知ったかぶり」とは言わず、「コミュニティの産物」であるといえば、少しは聞こえがいいかもしれない。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2022/03/10 12:00
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