錦鯉の優勝エピソードに「お笑い大河ドラマ」を見た! SMA芸人たちとコミュニティの産物
#テレビ日記
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(2月27~3月5日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
プラス・マイナス岩橋良昌「(Mr.Childrenの)桜井さんみたいな顔なってる」
私たちは自分の考えと他人の考えをうまく区別できないのかもしれない。2日の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のエピソードが興味深かった。
この日、放送されていたのは「芸人が今までで一番スゴいと思ったコメント調査」。タイトルどおり、芸人たちが今まで見聞きしたテレビのコメントのなかから、一番スゴいと思ったものを調査する企画だ。
たとえば、森田哲矢(さらば青春の光)があげていたのは、『水曜日』で浜田雅功と陣内智則が発言をゆずりあったときに松本人志が発した「最後の餃子か」。RG(レイザーラモン)が選んだのは、2013年の『キングオブコント』で採点が出たさいの川原克己(天竺鼠)のひとこと「じゃあパンサー」だ。
もちろん、これらのコメントはワードの選択も適切だったのだろう。ただ、芸人たちが選ぶ「スゴいと思ったコメント」は、コメントを発するスピードやタイミング、発言するまえのちょっとした仕草など、その場の空気感の察知や身体的なパフォーマンスも含めて評価されていたようだった。これは文字起こしでは伝わりにくい面白さだ。
そんななか、山内健司(かまいたち)のエピソードが印象的だった。山内が選んだのは、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で瀬下豊(天竺鼠)が激辛料理を食べた場面。その歪んだ表情をたとえて、岩橋良昌(プラス・マイナス)がドンピシャなコメントを発した。
「(Mr.Childrenの)桜井さんみたいな顔なってる」
この的確なたとえに現場は大ウケ。山内によると、ここから奇妙なことが起きたという。
「濱家は、自分が言ったと思ってたんですよね。『ミスチルの桜井さんみたいなたとえ、あんとき出たわ』みたいな感じで、手応えすごい感じてて。で、なんでかわかんないですけど、僕は僕で濱家がそれ言ってるの見て、『いやいや、あれ俺が言ったやん』って思ってたんですよ、マジで。(中略)みんなにバチンってハマりすぎて、自分が言いだしたと思っちゃってて」
あまりに的確で面白いコメントだったので、その場にいた人たちが自分の考えたことだと錯覚してしまう。そんな現象が起こったのだという。山内が語るVTRをスタジオで見ていた松本人志は、ワイプのなかで「なるほどね。あるかも」とつぶやいていた。
考えてみれば、私たちはどこまで自分の考えたことと他人の考えたことを分けられているのだろう。私たちは周囲の環境をよくわからずに見ている。よくわからなくてもなんとかなっている。
たとえば、私は絵が下手で、いわゆる“画伯”的な人間だと思っている。当然、自転車みたいな複雑な絵は描けない。自転車がどういう仕組みになっているのかよくわからない。
ただ、それでも自転車に乗れる。自転車だけではない。電車がどうやって動いているのかよく知らなくても、今日もいつもどおり出勤できる。なかで何が起こっているのか理屈は詳しくわからないけれど、電源を押してパソコンを立ち上げる。コンセントの仕組みがわからないので怖くてプラグを差し込めない、なんてこともない。
もちろん、自転車もパソコンもコンセントも、詳しい人は詳しい。けれど、その詳しい人も、医療保険制度について突っ込んで聞かれると、よくわからなかったりする。ある分野の専門家は別の分野の素人。あるところでは辞書的な本来の意味での“画伯”な人も、別のところでは揶揄的な意味での“画伯”な人だ。他人の知識を借りながら、自分の知識を他人に貸しながら。そんな無数にやりとりされる知識の網の目のなかで、いつもの日常がまわっている。
ただ、だからこそ、自分と他人の考えはうまく区別することができない。他人がどこかで考えたものについて、自分でも理解できていると錯覚してしまう。そうやっていわば知ったかぶりをすることで、私たちは複雑な社会のなかでもあまり立ち止まることなく生活していける。もちろん、その立ち止まらなさが、時に取り返しのつかないアクシデントにつながることもあるのだけれど。
他人のドンピシャなコメントを聞いた芸人が、自分が言ったと勘違いする。山内が語ったそんなエピソードは、自分と他人の考えがシームレスになりがちな人間の認知の性質と、そんな知ったかぶりしがちな認知だからこそ成り立っている私たちの社会のありかたに、なんだか触れているようだった。大げさかもしれないけれど。
そして、白状しておきたい。私のここまでの「私たちは自分の考えと他人の考えをうまく区別できないのかもしれない」みたいな話は、すべて最近読んだ『知ってるつもり 無知の科学』(S.スローマン&P.ファーンバック著、土方奈美訳、早川書房)という本の受け売り、要は知ったかぶりである。
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