横浜レジェンド町中華「奇珍」具材に負けない揚げ麺のスーパーイリュージョン
#横浜 #かた焼きそば
3日かけて出来上がる揚げ麺
従業員たちがせっせと焼売(しゅうまい)を包んでいるすぐ隣の席に座り、メニューを確認。テーブルにもメニューがあるのだが、やはりこの壁掛けタイプのメニューから選びたい、というか、ついつい目を奪われてしまう素敵な配色と書体。
さて、パッと見る限り「かた焼きそば」の文字はどこにもない。前回同様、「裏メニューか?」と思った貴方は早合点、奇珍では「焼ソバ=かた焼きそば」なのだ。五目焼ソバももちろん「かた」い。
ここで思い浮かんだのは、立川福来軒の回でも述べた「焼きそば=かた焼きそば」仮説。
“アメリカで誕生したかた焼きそばの表記がもともと「Chow mein」(現在では通常の「中華料理の焼きそば」として認識されている)だったために、当時のアメリカ式中華料理を修行した者にとっては「焼きそば=かた焼きそば」という認識だった。その後、中華料理の焼きそばと混同してしまうのを避けるために、それぞれの名称を名乗るようになったのではないだろうか……” そう考えると、店外のガラスケースに書かれていた「CHINESE RESTAURANT」に妙な説得力を感じる……。深みにはまって抜けられなくなる前に注文しなければ。
数分後に配膳。眼前に散りばめられた色とりどりの世界に、思わず顔がほころんでしまう。これぞ「ご馳走」と言うべきビジュアルではないだろうか。
具材はキャベツ、ニンジン、タケノコ、セロリ、キクラゲ、海老、イカ、なると、錦糸卵。時期によってラインナップは多少変化するようだ。
揚げ麺は、かた焼きそばには珍しい極細麺がギリギリのタイミングで揚げられている。もし、一般的なかた焼きそばに極細麺を使用したならば、具材のパンチ力に揚げ麺が負けてしまい、バランスの悪い出来になってしまうだろう。
ここで、奇珍の揚げ麺が出来るまでを紹介しよう。
自家製の生麺を蒸籠で2時間蒸した後、粗熱を取り、麺専用の冷蔵庫で2日間乾燥させる。乾燥後、熱湯をかけて麺を戻し、揚げる際は180℃より少し高い温度でサクッと。
都合3日かけて出来上がった揚げ麺だからこそ、細くとも具材に負けることなくがっぷり四つ。口に入れればピキピキ感もありつつ、ふんわり溶けるスーパーイリュージョン。
かた焼きそばを提供する多くの店舗は、具材にフォーカスしがちで肝心の揚げ麺がおざなりになっている印象を受ける。かた焼きそばだってれっきとした麺料理なのだ。
そして、奇珍のもうひとつの特徴。それは「甘さ」。
甘いといってもお菓子やデザートなどとは違う、淡く懐かしい甘味を感じる。この日本に中華料理が根づく遥か以前、もしかしたらこの味が中華本来のスタンダードだったのかもしれない。
今後もこの唯一無二の味を守り続けてもらいたいが、残念ながら私の代で最後になるだろうと3代目の氏は言う。町中華を悩ませる後継者問題、奇珍も例外ではない。
果たしてあと何年、この(かた)焼ソバを食べることができるのだろうか。
<INFO>
・奇珍
住所:神奈川県横浜市中区麦田町2-44
営業時間:[月~金]] 11:30~15:00、17:00~21:00
定休日:木曜(祝日は営業、前日または後日休み)
*新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合あり
<連載「かた焼きそばのフィロソフィー」の過去回>
第1回:「海老天ベンツも潜む圧倒的な情報量の“揚げ日本そば”スタイル」
第2回:「中野坂上にも“夢と魔法の王国”があった! 豚レバーとピリ辛餡が刺激的な『ミッキー』のかた焼きそば」
第3回:「椎茸・ザ ・ボンバーの一点突破! “映え”だけじゃない極端かた焼きそばの滋味と享楽」
第4回:「インド、アメリカ、中国が同盟を結んだ! フォークで食べる常識破りのジャンクかた焼きそば」
第5回:「創業90年の町中華で味わう極上“アンビエント”かた焼きそばの宇宙と無常観」
第6回:「まるでかた焼きそばのサラダ! 立川で100年以上続く福来軒の懐かしくて新しい逸品」
第7回:「エキゾチックなタイ版かた焼きそば“あんかけのスコール”で微笑みがあふれ出す!」
第8回:「“かた焼きそば名門校”出身の料理人による天衣無縫のあんかけと病みつき揚げ麺」
第9回:「羽生善治九段の勝利にも貢献した“将棋めし”聖地が『かた焼き祭り』を開催!」
第10回:「人生につまずいたときに優しく迎えてくれる中目黒の王道かた焼きそば」
第11回:「ベトナムと日本をつなぐ『あんかけ揚げめんフォー』のワンダーランド」
第12回:「水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの『揚げかたやきそば』」
第13回:「渋谷の名店『麗郷』で使える裏技! メニューにないバキバキかた焼きそば」
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