神尾楓珠の目力にビョルン・アンドレセンを見た! “母と息子”の奇妙な疑似家族スリラー『親密な他人』
#映画 #神尾楓珠 #親密な他人
神尾楓珠の目力はビョルン・アンドレセンの眼差しを感じさせる!!
舞台となるのは、コロナ過の現代日本。当初はコロナ過をフィクションに反映させることは斬新だったかもしれないが、今では『茜色に焼かれる』(2021)、『ちょっと思い出しただけ』(2022)など、そんな設定が逆にあたりまえになりつつある。
今作でもマスクをしているシーンが多く、表情がわかりにくいという問題があった。そこで、目元の演技だけで、特徴を出せるほどの目力を持つ役者が必要となった。そこで抜擢されたのが、神尾楓珠である。
神尾楓珠といえば、『兄に愛されすぎて困ってます』(2017)や『私がモテてどうすんだ』(2020)などの、いわゆる“キラキラ映画”に出演しながらも、その一方では『裏アカ』(2021)のような、心に闇を抱えたミステリアスな役も演じることでも注目される気鋭の俳優のひとりである。
中村監督は、オーディションで神尾楓珠を見た際に、『ヴェニスに死す』(1971)のタジオに似ていると思ったそうだ。2021年12月に日本でも公開されたドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』も話題となった、ビョルン・アンドレセンの往年の眼差しを彼に見ていたのだ。美しいだけでなく、その中に見える闇にも惹かれたという。
その印象は、今作のポスタービジュアルの表情からも伝わるはず。神尾楓珠は、なにか不思議な魅力を感じる目力を持った俳優だ。
神尾楓珠演じる雄二は、オレオレ詐欺の受け子である。あえて冒頭で雄二が詐欺を行っているシーンを見せることで、恵(黒沢あすか)に近づいたのも、何か別の目的があり、息子の喪失感につけこんだ詐欺なのではないかという可能性を提示している。しかし、今作はストーリーが進むにつれ、そんな雄二の視点、また観客からの雄二に対する視点が、徐々に変化していく……。
幼少期のトラウマによって、母の愛に飢える雄二は、不安と恐怖の中であっても、恵を母と重ね合わせていく。雄二と恵は疑似家族のような関係性になっていくのだが、今作は、そんな互いの喪失感を慰め合うだけの人間ドラマではない、完全なスリラーだ。安心と不安という両極端の位置に立つ雄二を、神尾楓珠がそれこそ目力を駆使して、体現している。
日常に潜む異質感の演出はデヴィッド・リンチのように
今作は、全編にわたって、日常に潜む異質感が意図的に散りばめられている。
例えば恵の住むマンションに置かれている家電や家具が、少し奇妙な配置にされている。これは女性の体内、子宮の中というイメージであり、その異質感が観客を不安にさせる。
そんな独特の雰囲気の演出には『イレイザーヘッド』(1976)を意識していたと、中村監督自身が東京国際映画祭のインタビューで語っている。他にも、『ブルーベルベット』(1986)などのデヴィッド・リンチ作品の演出方法に影響を受けているのだ。
中でも、筆者が気になったシーンが中盤にある。ベビーカーに乗ったまま放置されて、泣いていた赤ちゃんを恵があやしていた際に、母親が戻ってきて、一方的に変質者のように責められるというシーンだ。
恵を演じる黒沢あすかの表情から、子どもに対する行き過ぎた執着、狂気性が浮き彫りになるシーンではあるが、ただあやしていただけかもしれない。
他者と関わることが極端に控えられている現代では余計に、善意によるものであっても、受け取り方次第で悪にもなり得てしまう危険性が日常に潜んでいる、というメッセージであると感じられた。
母の息子に対する愛情も、取り上げ方によっては美しいものとなるが、逆に異常な執着としても切り取り、見せることができてしまう。
時と場合によって、白にも黒にもなり得てしまう両極端なものが常に描かれていることこそが、今作の持つ全体的な色のイメージを灰色に感じさせる要因でもあるのだ。
『親密な他人』
●2022年3月5日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本:中村真夕
出演:黒沢あすか 神尾楓珠 上村侑 尚玄 佐野史郎 丘みつ子
配給::シグロ
2021年/日本/カラー/96分
公式サイト:http://www.cine.co.jp/shinmitunatanin/
公式Twitter:@IntimateStrang
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