『ねほりんぱほりん』社員を“リストラ”と“死”に追い込んだ非人道的なノウハウ
#NHK #ねほりんぱほりん
退職へ追い込もうと、人間を壊す方向に誘導する
退職合意書にサインしない社員が出てきた場合。そういうケースでもやり方はあるらしい。ソウタさんが明かした。
「『残るんだったらば、頑張れるよね? じゃあ、営業目標を一緒に考えようか』って話すんですよ」(ソウタさん)
そこで本人が「前年の105%を売り上げます」と言ったら、「105%で今の経営状況って打開できるかなあ?」と返す。すると、勝手に本人が目標を釣り上げていくらしい。110%、120%、130%……もはや、実現不可能な数字に達している。でも、あくまで自ら提示した目標だ。自分から言わせるやり口は、やはり反社のそれに近い。
「できるわけないですよ。でも、本人は自分が退職勧奨受けてるんで、頑張るんです。休日返上で頑張ったり、夜遅くまで頑張ったり、これをずっと続けてくんですよね。3カ月ぐらいそんな状態を経過観察し、その頃には顔色真っ青で話もろくすっぽ聞こえてないですし、もうズタボロですよ」(ソウタさん)
そのタイミングで「大丈夫か。診てもらったほうがいいんじゃないのか?」と促し、病院で抑うつ状態と診断が出たら本人と相談して休職に。そして休職期間が満了すると、雇用は終了である。人を壊す方向へ誘導する荒さは、鬼だ。彼の狡猾さは悪魔のそれである。会社都合の退職で処理するのではなく、退職の方向に仕向けるだけ。そこは、あくまでブレない。えげつなさすぎて言葉を失った。
仕事上の業務とはいえ、リストラ担当者が行っているのは殺人だ。尊厳的な死でもあり、工場で起こったように現実的な殺人でもある。ソウタさんの追い込んでいくやり方を聞くと、そう言わざるを得ない。
彼がリストラのために行った方法に、法律的な問題はないのか? 番組は多くの雇用・労働問題に関わる鮫島千尋弁護士に話を聞きに行った。
「この事案ですと、いろいろな部分で違法な部分があると思いますね」(鮫島弁護士)
特に大きいのは、以下の2点だ。
・なんとか自発的に辞めてもらうため、嫌がらせをしている状態。これで労働者は損害を被ったのだから、民法709条(不法行為による損害賠償)の損害賠償責任問題が出てくる。
・売上目標が達成不可能な数字で、会社はそれをわかっているのに本人がうつになるまで仕事をさせ、追い詰めた。労働者の精神面を管理する安全配慮義務に違反している。
当然である。法律的に明らかにアウトだ。「人としてやっちゃダメだろう」と憤っていたから、違法と言い切ってくれて救われた。ソウタさんが行っていたのは違法リストラである。
ということは、訴えれば勝てる目があるということ? でも、この状態まで追い込まれたら本人は正常な判断力を失っているだろうし、退職して逆に解放感を覚えていたかもしれない。何にせよ、人間のやる所業ではない。鮫島弁護士の解説を聞き、ソウタさんはどう思ったのか?
「思い返せば『ちょっとおかしいな』と思ってたんですけど、もともとは私、専門知識があって人事部に行ったわけではないんですよね。本当に一番怖かったのは、やらなきゃ自分が切られるので、そのプレッシャーで必死にやってくしかなかったかなって」(ソウタさん)
自分が切られないために、誰かを切るという地獄。赤軍で起こった内ゲバの構造に酷似している。
「ただ、だんだん『ちょっとおかしいな』と思ったりとか、自分の中で転機になったリストラがあって」(ソウタさん)
あるとき、ソウタさんがリストラを告げた対象者は50代の男性だった。すると、彼は机に額が当たるほど頭を下げ、「息子が今年から大学行くんで、お金が必要なんです。もう一回チャンスください」と泣きながら訴えたという。
「大体、私の父親と同じくらいのお年だったんですけどね。『この人が自分の親父だったらなあ』とか、初めて相手に感情が入ったかなって。『お子さん、どうなのかな』とか『この人、奥さんに何て説明するんだろう』とか。人の人生メチャメチャ狂わせてるんじゃないかなあって本当に思って、吐き気がそこから止まらなくなりました」(ソウタさん)
反省の弁を述べているように見えるが、この時点まで相手に感情が入らなかったとは本当に狂っている。会社の価値観に洗脳されていたのか? 50代での再就職は、おそらくかなり難しいだろう。切って、もうそれで終わりだというのか? 再就職の支援は? ソウタさんは罪悪感を覚えたようだが、罪悪感を薄める方法は他にまだある気がする。
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