富野由悠季「皆殺しの富野」と恐れられアニメで人間を突き詰め続けた監督の思想をどう展示したのか?
#戦争 #ガンダム #富野由悠季
ガンダム成功から『イデオン』で驚愕の全滅エンド!
舞台は長年、富野の憧れだった宇宙。宇宙を舞台に地球人同士が政治的な理由で争う。開戦直前に生を受け、人類がまだ見ぬフロンティア宇宙に憧れ、大学の頃は学生運動に巻き込まれた。富野の人生には「戦争」「宇宙」「政治」がつきまとった。それらはすべてガンダムで描かれたテーマだ。
自身のクリエイティブの原点となった要素をすべて取り入れ、玩具会社のいうがままにガンダムの色まで変え、商業主義と作家性を両立させようとした富野だが、テレビの視聴率は伸びず、玩具が売れないことなどを理由に打ち切られてしまう。
だが放送終了後の再放送、プラモ化で人気に火が付き、映画三部作が大ヒット。その影響で富野は憧れだった映画監督にもなれ、ガンダムのノベライズで小説家としてもデビューした。富野はついに成功を手にしたのだ。
成功した富野の演出はますます冴えわたった。ガンダムの劇場版と同時進行で製作された『伝説巨神イデオン』もまた視聴率不振、玩具売り上げ低下を理由に打ち切りとなる。『イデオン』のラストでは登場人物が死に絶える。『ザンボット3』どころではない驚愕の「全滅エンド」で「皆殺しの富野」と恐れられたことは今も語り草であるが、当初からこの構想を抱いていたという。
業界きっての“富野推し”樋口真嗣監督とのトークショーで富野は、打ち切りになったから皆殺しのラストにスムーズに持って行けたといい、打ち切りへの不満を露にする。
「こんなに一生懸命つくってるイデオンをホントにスポンサーにしても局にしても、打ち切りにしたな、と。それにどんなエンディングが待ってるかってことを少しは想像しろよと。こいつらをわからせるためには、皆殺ししかない!」
アニメのおかげで犯罪者にならなくて済んだ、という富野ならではの過激な発言。
『イデオン』で怒りに火が付いた富野は翌年以降、毎年のように新作を発表する。『戦闘メカザブングル』『聖戦士ダンバイン』『重戦機エルガイム』そして『Zガンダム』『ZZガンダム』と続くシリーズ化。80年代のキッズは毎年、富野由悠季の新作を楽しんでいたのだ。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『機動戦士ガンダム F91』2本の劇場用作品を経て富野は、6年ぶりにテレビシリーズのガンダムを再開する。『機動戦士Vガンダム』だ。
富野は『Vガンダム』の作品世界の説明となる構成案をつくっており、
「なぜ戦争が起きるのか? それで誰が得をするのか?」
という設定を関係者曰く「一分の隙もない」状態で仕上げていてストーリーに盛り込んでいた。自身を構成するピースのひとつ「戦争」をつかって、完全に理論武装していた。
そうして挑んだ『Vガンダム』は「4話まで主役メカであるガンダムが登場しない」という斬新な展開をスポンサーの要望で第1話に変更されたり、戦争が続く中で登場人物は皆おかしくなっていき、ラスト数回のすさまじい鬱展開は『ザンボット3』や『イデオン』を軽く凌駕していた。当時の富野は鬱病であったともいわれている。
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