富野由悠季「皆殺しの富野」と恐れられアニメで人間を突き詰め続けた監督の思想をどう展示したのか?
#戦争 #ガンダム #富野由悠季
『富野由悠季の世界』-通称「富野展」ともいわれたこの企画は2019年から21年にかけて全国8会場で開催された、アニメーション監督・富野由悠季の初展覧会だ。
各会場では富野が手掛けた歴代アニメ作品の企画書、絵コンテ、演出メモをはじめとする膨大な資料が展示されており「2~3時間は観ていられる」という来場者もいたほどの濃密な展覧会だった。
この展覧会に先立つ企画展があった。2014年夏の『機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM』だ。制作資料1,000点の一挙公開、当時放送前だった新作アニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』の最新映像などが売りの「史上最大の展覧会」と銘打ったものだったが、大阪・天保山の会場に姿を見せた富野の表情は芳しくなかった。
「考え方の問題があって、ここ(会場の壁を示す)がこうだったらここには何も無くてもいいじゃないかって考え方は当然あるんです……が、やっぱりここの会場全体を言ってしまえばガンダムまみれにさせておかないと、お客さんが安心しないんだよね。それをこうやって隙間つくってるのは、正直言って主催者側の怠慢です」
会場には所狭しとガンダムの設定画、セル画、イラストなどが張り出されているが、それでも隙間が多いという富野。さらには会場の動線を示す矢印が小さく、通路の先に何も掲示されていない真っ白な壁が現れると「(観客の)気分が途切れるのよ。それが良くない」と関係者を叱咤する。
どうやら富野は展示の並べ方に納得しておらず、会場側に「アニメの原画のクオリティや意味を知っている人は一生懸命見てくれるけど、僕はそういう人たちは対象外なの。何にも知らない人がダーッとやってきて、へぇーっと思ってくれなくちゃ!」とまくしたて、観客がドキッとするようなことを言い放つ。
「アニメのセル絵がアートなのかって話なの!」
「『富野由悠季の世界』~Film works entrusted to the future~」は『富野由悠季の世界』展を主催した学芸員、富野に影響を受けたクリエイターらの証言を交え、この年80歳を迎え未だ現役である富野由悠季の創作の原点はどこにあるのかに迫るドキュメンタリーだ。
『富野由悠季の世界』を企画したのは福岡美術館の学芸員、山口洋三と青森美術館の学芸員、工藤健志。2人は富野展に先立つ15年、ある画期的な展覧会を開催している。『成田亨 美術/特撮/怪獣』。初期ウルトラシリーズのウルトラマンや怪獣のデザインを手がけたデザイナー、彫刻家、成田亨の作品の美術展だ。
成田は『ウルトラQ』の途中から参加し、ウルトラマンなどのデザインをしたが後年、商業主義に陥った円谷プロの在り方を激しく批判し、角やひげをつけたウルトラマンのデザインを嫌悪していた。商品としてではなく、美術としてのデザインを生み出そうとしたアーティストだったのだ。
「ウルトラマンの展覧会」ではなく「美術作家、成田亨の作品展示会」として成立させた展覧会の打ち上げで工藤は「富野由悠季の展覧会をやりたい」と漏らす。芸術家としてウルトラマンの創作に関わった成田の作品をアートとして展示できたのなら、富野の作品だってアートとして成立するのでは?
2人はとある懇親会で富野に展覧会構想を打ち明けるが、本人からは「提示するものは何もないし、展覧会として成り立つわけがない」とあっさりかわされてしまう。
「演出というものは概念的なもので、それを示すことはできません」
しかし断る、というわけではなく「やれるなら、やってごらん」と2人を焚きつける。『機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM』での富野の発言を聞けば、容易であるはずがない難題に2人は立ち向かうことになった。
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