富野由悠季「皆殺しの富野」と恐れられアニメで人間を突き詰め続けた監督の思想をどう展示したのか?
#戦争 #ガンダム #富野由悠季
商業主義と折り合いをつけて作家性を発揮する
75年。富野はロボットアニメ『勇者ライディーン』に着手する。ガンダムより以前の、富野にとって初のロボットアニメ、しかもチーフ・プロデューサーという役職に挑んだ。ロボットアニメ、そしてその後の富野の「アニメ作家」としての在り方を形作った一本だ。
『勇者ライディーン』は、玩具会社のポピーが主導で行われた企画。当時『マジンガーZ』の超合金が大ヒットしており、玩具メーカーはこぞって第2のマジンガーを求めていた。ポピーはマジンガーより売れるおもちゃを作りたい、そのためにアニメを作ってほしいと。プロデューサーとして富野の初めての仕事は、玩具メーカーの依頼通りのオーダーをこなすことだった。
そして富野はそのオーダーを真摯に受け止めた。おもちゃを売れるよう、ロボットを目立たせ、カッコよく映るように演出した。制作中にはさまざまなトラブルからプロデューサーを途中降板するという苦渋を舐めさせられるが、ライディーンの超合金は大ヒットを記録する。
商業主義に取り込まれつつ、その中で作家性を発揮するという二律背反を富野はその後の作品でも達成させる。『無敵超人ザンボット3』で新興玩具会社のクローバーと組んで「ロボットが売れるため」のアニメを作るが、原作・総監督の富野はそこに勧善懲悪をひっくり返す展開を持ち込んだ。
当時、正義と思っていたものが正義ではなく、悪にもそれなりの理由があるというクライマックスは視聴者に衝撃を与えた。ザンボットに先立つ72年にも富野は『海のトリトン』で正義と悪がひっくり返るラストを描いており、「所詮おもちゃを売るための作品です」と言いながら、自分の作家性を潜ませている。
「アニメの仕事のおかげで犯罪者にならなくて済んだ。フラストレーションを巨大ロボットものをやることで晴らすことができた。これはとっても重要なことで、命拾いをしましたね」と、少々危険な事を言い出す富野。『ザンボット3』では敵が地球人を人質にとって体内に爆弾を埋め込んで帰す「人間爆弾」のエピソードを入れたり、後半では主人公一家が次々仲間のために犠牲になる展開を持ち込んで視聴者の子供たちをドン引きさせた。
「これが実写ならキツ過ぎてカルトになってしまう。アニメなので中和された」と自己分析する富野がもし、当初の希望通り映画会社に入っていたらとんでもなく陰惨な映画をつくってたかも知れない……。
『ザンボット3』、翌年の『無敵鋼人ダイターン3』でメーカーの希望通りおもちゃをヒットさせた富野は、スポンサーの干渉が緩くなったことに乗じて自分のやりたい企画を通してしまう。それが『機動戦士ガンダム』だ。
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