村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』約3時間があっという間だった理由
#村上春樹 #カンヌ映画祭
2021年8月20日より『ドライブ・マイ・カー』が公開されている。本作は第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞、ほか3部門にも輝く快挙を成し遂げた。
本編は、文芸作品と呼ぶにふさわしいアート性があると共に、娯楽映画として存分に楽しめる内容だった。何しろ、上映時間が179分と長いにも関わらず、誇張抜きで(もちろん個人差はあるだろうが)90分くらいにしか感じなかったのだから。なぜ、「約3時間があっという間」と思えるほどにのめり込む面白さがあったのか、解説していこう。
多数の要素が絡み合い、とにかく面白い
あらすじを簡潔に表すのであれば、目の病気を患った舞台俳優で演出家の男が、新たな演劇祭で寡黙な女性ドライバーと出会う、というもの。彼は亡き妻が生前に浮気をしていたことを知っていたが、「なぜ」浮気をしていたのか、その理由が永遠にわからないでいた。そんな中でも演劇祭のオーディションや本読みは粛々と進行し、次第に女性ドライバーとお互いの過去を含めて車内で話し合い、わかりあっていく。
「亡くなった妻が浮気をしていた」という過去を引きずる主人公が、女性ドライバーと会話をする中でどのように心境を変化させていくのか、というドラマに加えて、日本語や英語や韓国語、そして手話を含めた多言語が織りなす演劇祭が進む様は「知らない世界」へと導かれたようであり、途中から登場する若くてハンサムな役者が予想外の方向へと物語を転がしていく様もスリリングだ。
このように多数の要素が絡み合い、それぞれがバラバラにならず一本の映画の中で有機的に結びついていることが『ドライブ・マイ・カー』のいちばんの魅力と言っていい。作品全体のトーンはややダウナーではあるが、親しみやすいコメディシーンもあり、かと思えばどこかに不穏な展開を呼ぶ「影」が見え、単なる車内での会話が人生のさまざまな示唆に富むものであるため、ずっと興味を持って聞いていられる……と、とにかく面白いのである。
そして、真っ当な大人のようだが激情を隠しているようにも見える西島秀俊、ぶっきらぼうなようでいて繊細さも見せる三浦透子、表向きは好青年だがどこか危うさを感じさせる岡田将生など、実力派俳優の演技も絶品。「会話をしているだけなのに面白い」のは、わずかな表情の機微や声のトーンなどで、説明に頼らず雄弁に語ってみせる役者の力の賜物だ。
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