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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.648

カンヌも絶賛、人間の隠された心の闇を旅する西島秀俊主演の話題作『ドライブ・マイ・カー』

思いがけない風景を目にするドライブ

カンヌも絶賛、人間の隠された心の闇を旅する西島秀俊主演の話題作『ドライブ・マイ・カー』の画像3
ワークショップの様子。台本を徹底的に読み返す作業が続く

 ワークショップを進める演出家の家福にも変化が生じる。亡くなった妻・音の不貞がトラウマとして脳裏に焼き付いているが、それ以上に深い傷となっているのは、妻を救うことができなかった自分自身に対する罪悪感だった。音との思い出が刻まれた愛車「サーブ900」に毎日乗りながら、音の声で吹き込まれた『ワーニャ伯父さん』の台本を聴き続けている。妻の死に囚われ続けている家福だが、高槻と接することで、自分が知らなかった音の意外な一面を知ることになる。人類が月の裏側を知らないように、家福も一緒に暮らしていた妻・音にまだ知らない顔があったことを思い知る。家福が理解していたよりも、音の内面はより多面的で、複雑だった。

 毎日、家福を稽古場へと連れていく運転手のみさきにも変化が起きる。家福が車中で流す『ワーニャ伯父さん』を耳にしているうちに、無口なみさきも演劇に興味を持つようになる。生身の人間が芝居を通して、別の人生を経験することに感銘を覚える。北海道の寒村育ちのみさきも、心の奥に罪悪感を抱えていた。車の運転以外には関心を持とうとしなかったみさきだったが、彼女もまた家福たちと出会うことで、人間の持つ多面性に気づくことになる。家福もみさきも、少しだけ世界が広がる。そして、贖罪の機会を与えられた高槻には意外な結末が待っていた。

 家福とみさき、彼らと一緒にドライブするつもりで、映画館のシートに座ってみてはどうだろうか。多彩なキャストたちが織りなす妙演に引き込まれていくうちに、思いがけない風景を目にすることになる。飽きることのない、人間の複雑な内面世界をめぐる刺激的な2時間59分のドライブになるはずだ。

カンヌも絶賛、人間の隠された心の闇を旅する西島秀俊主演の話題作『ドライブ・マイ・カー』の画像4
©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

『ドライブ・マイ・カー』
原作/村上春樹 脚本/濱口竜介、大江崇充 監督/濱口竜介
出演/西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、アン・フィテ、ペリー・ディゾン、安部聡子、岡田将生
配給/ビターズ・エンド PG12 8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
https://dmc.bitters.co.jp

最終更新:2022/05/17 15:40
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