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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > “わからなさ”の限りなく少ないテレビと星野源

星野源はわからない。けど、面白い。“わからなさ”の限りなく少ないテレビの地平から

星野源「あなたの音楽の感受性が、いつの間にか田おこしされているかもしれません」

 わからないといえば、この2月から全4回の予定で放送されている『星野源のおんがくこうろん』(NHK Eテレ)。毎回1人の音楽家にスポットをあてる音楽教養番組である。この番組について個人的な感想をひと言でいうなら、「わからない。けど、面白い」だ。

 番組のホスト役をつとめるのは星野源。進行は林田理沙アナウンサーである。セットはNHK総合の『時事公論』を模したようなもので、解説員として音楽ジャーナリストや大学教授なども出演する。ただ、それらの解説員は、かつてNHKで放送されていた『ハッチポッチステーション』風のパペットになっている。

 そんなパロディ的な番組の枠組みや、パペットの存在などからは、なんだか柔らかくとっつきやすい番組のような印象を受ける。けれど、内容は硬派。これまで取りあげられてきた音楽家は、J.ディラ、ジョージ・ガーシュウィン、アーリー・ウィリスといった面々だ。

 ――と、なんだか訳知り顔で書いているけれど、音楽にうとく洋楽にあまり触れてきていない私は、この番組で取り上げられてきた音楽家を知らない。わからなさに開き直るのはダサいことだとわかっているけれど、開き直るしかないほどわからない。

 これまで、星野源が出演する『おげんさんといっしょ』(NHK総合)でも、彼と松重豊などとのあいだで洋楽を中心とした偏愛的な音楽トークが繰り広げられてきた。そんな『おげんさんといっしょ』について、かつてこの連載で次のように書いたことがある。

「わからない。何がわからないって、音楽に明るくない僕は、この洋楽トークに出てくる人名や曲名など固有名詞がまったくわからなかった。いわば、ビジーフォーの洋楽モノマネを、似てるかどうかわからないのにうなずきながら聴いている審査員の状態。(中略)でも、『わかること』をつなげても、それはそれまでの自分の延長上。『わからない』中で期せずして出会う情報が、人をまったく新しいところに連れて行ったりもするはずだ」(「星野源『おげんさんといっしょ』が挑戦する、”わからない”という楽しさ」2019年10月22日)

 星野がNHKを舞台にテレビで挑戦し続けていることは、テレビのなかに“わかりにくい時間”を増やすことで一貫しているのだと思う。

 音楽に詳しい人は、『おんがくこうろん』で取り上げられる人やエピソードをよく知っているのだろう。けれどおそらく、星野源の名前や番組の柔らかそうな雰囲気につられて『おんがくこうろん』を見た人の多くは、そこで取りあげられた音楽家をあまり知らなかったはずだ。というか、星野がこういう番組をやり、こういう人選となったのは、ほとんどの人が知らないからだろう。

 番組のオープニングでは、こんな星野のナレーションが入る。

「歴史を変えた音楽家にスポットをあてるこの番組。音楽家が制作した楽曲を聞き、その人生を見つめながら、星野源が学びみんなで楽しく語りあいます。僕らが語らう姿をみているうちに、あら不思議、あなたの音楽の感受性が、いつのまにか田おこしされているかもしれません」

 もちろん、この番組も、全体のデザインからVTRの細かなつくりまで、できるだけわかりやすく伝えようとする工夫や技術にあふれているはずだ。そしてなにより、星野源といういまの日本で随一のポップスターの存在が、わかりやすいのかもしれないという感覚を見るものに伝え、わからないものへの心理的なハードルを下げるメディアになっているのだろう。

 ただ、見終わったあと、音楽的な教養のない者にはやっぱりよくわからなかったりするのだ。

 おそらく多くの人にとって、『おんがくこうろん』はわからないものと出会う機会になっているはずだ。ただ、同じ“わからない”でも、無知と未知はちがう。自分がわからないことすらわかっていない無知から、自分がわからないことがわかっている未知へ。そんな“わからない”のなかでのわずかな、しかし決定的な一歩が踏みだせているという感覚。そんなまさに「田おこし」的感覚が、この番組の面白さなのかもしれない。

 そんな『星野源のおんがくこうろん』も、3月11日までの全4回で終了。次のシーズンはあるのだろうか。あるのだとしたら、ぜひ、稀代の音楽家・黒沢かずこを取りあげてほしい。――と、そんな見え見えのわかりやすいオチをつけるのはよくない。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2022/02/28 20:00
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