『ゴヤの名画と優しい泥棒』絵画を人質に取った「ヒーロー」の実話
#実話映画
悲しい過去と「折り合い」をつける夫婦のドラマも
さらなる注目キャラは、前述したように破天荒すぎる夫を支える、長年の妻であるドロシー・バントンだ。彼女は、寝室で執筆活動をしたり、社会運動に出かけたりするケンプトンを尻目に、中流家庭の床磨きをして、まともな収入を家庭にもたらしていた苦労人。だからこそ、彼女が事あるごとに口にする夫への文句は切実なので笑うに笑えない(でもツッコミが鋭すぎて笑ってしまう)。
その妻ドロシーが劇中で与えられている役割は、とんでもない夫への毒舌を吐くだけではない。実は、夫婦には長女をある出来事で亡くしてしまった、悲しい過去がある。劇中ではドロシーがその事実への「折り合い」をつける過程で、その複雑な心理も丹念に描かれており、夫婦のドラマとしても見応えのある内容になっているのだ。ケンプトンの机の中に隠されていた「写真」にまつわるシーンも、大きな感動があるだろう。
そのように、笑えるけどちょっぴり切ないコメディ、貧困にあえぐ市井の人々にとってのヒーローとなろうとする社会派の面、過去の悲劇と向き合う夫婦のドラマなど、多層的な魅力がある作品になっているのだが、さらに「ネタバレ厳禁のサプライズ」もあるというのもニクいところ。これは途中で「あれ?」と思える伏線というか演出があるので、予想ができる方もいるだろうが、筆者は大いに驚いた。
そのネタバレ厳禁のサプライズがあったその後に、劇中最大の感動とカタルシスが待ち受けている。邦題通りに市井の人々のために行動を起こした優しい泥棒の話だと思っていたら、「なるほど、その優しさには、そういう意味もあったのか!」という嬉しさもあったのだ。それも含めて、ぜひ劇場で楽しんでほしい。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』
2022年2月25日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督:ロジャー・ミッシェル『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』
出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2020年/イギリス/英語/95分/シネマスコープ/5.1ch /原題:THE DUKE /日本語字幕:松浦美奈
C) PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
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