ホロコースト言及で猛批判のウーピー・ゴールドバーグとはどう違う?失敗から学ぶコメディのあり方
#Netflix #スタンダップコメディ #Saku Yanagawa
際どすぎる「ホロコースト・ジョーク」にどよめき
その後も「男はいざこの女と寝られるってなると信念だって簡単に曲げる。支持政党だって変えられる。『僕は共和党支持だ』ってね!『気候変動なんて嘘っぱちさ』って言えちゃうんだ! でももし、相手の女性が共和党支持なら、避妊はしようと思ってる。不測の事態に備えてね。おそらく中絶反対派だから。僕にとって中絶は飛行機のリクライニングと同じ。顰蹙を買おうが、権利は行使するぜ」といった具合だ。
そして極め付きが、終盤に飛び出した「ホロコースト・ジョーク」だった。
「この前、ホロコースト博物館に行って当時の悲惨な写真を見たよ。でもふと思ったんだけど、いったい誰があんな状況を撮影したんだ?
『はい、ちゃんと並んで!撮りますよ、はいチーズ』
『待って、私痩せすぎてるかも』
『大丈夫ですよ、カメラに映ると人は実際より太って見えますから』」
さすがにこのジョークに会場では、低いどよめきがこだました。コメディアンが際どいジョークを言った際にしばしば客席から上がる声で、マークのショーの代名詞とも言える。
これにはさすがのマークでも、すかさずフォローを入れた。
「冗談だよ。僕はユダヤ人を敵に回したくないんだ。だってこの業界(エンタメ界)に多いからね。ちゃんと心得てるさ。本当にユダヤ人は大好きさ!」
そして客席を見渡すと、
「この中にユダヤ人のお客さんはいるかい?」
と尋ねた。そして数名が歓声をあげ応えると、
「今すぐ奴らを収容しろ!」
と言う始末。
コメディアンの間でもとりわけホロコーストを話題にするのには、細心の注意と覚悟が必要だと言われている。日本でも昨年、東京オリンピックの総合演出を任されていた小林賢太郎氏が、過去のホロコーストネタのせいで「キャンセル」されたことが記憶に新しい。
アメリカでは先日、黒人スタンダップコメディアンの草分けで映画『天使にラブソングを』など、女優としても知られるウーピー・ゴールドバーグが、自身で司会を務めるABCのトーク番組『ザ・ビュー』の中で、「ホロコーストは人種の問題ではないと思う。黒人の私から見ると、白人が白人を殺しただけであって、あくまでも非人道的な問題なのよ」と発言し大炎上。
ホロコースト博物館を始め、ユダヤ系の人権団体からも抗議が相次ぎ、すぐさま番組から謹慎を言い渡された。
このように、非常にセンシティブな話題も果敢に取り扱うマークには、同業者のコメディアンからのリスペクトが非常に多い。そして無論、彼の際どいジョークの狙いがただ闇雲に茶化すことでないことも、この日「コメディ」に駆けつけた観客は理解している。
最後にマークはこう締めくくる。
「真面目な話、ホロコーストは悲惨だ。でも、人間ってのは、悲惨な経験から多くのことを学ぶもんさ。僕たちは過ちから、学んでいくんだ! 悲惨な経験はのちに僕たち人間にとって有益な情報になる。そうしなきゃいけなんだ!」
そして鳴り止まない拍手の中、再び拳を突き上げ「Comedy!」と叫ぶと、颯爽と舞台を去っていった。
<マーク・ノーマンド>1983年、ニューオーリンズ生まれ。地元クラブで初舞台を踏むとニューヨークに拠点を移し、数々のフェスティバルやテレビに出演。現在もニューヨークでの活動を続けながら、全米をヘッドライナーとして周る。コメディセントラルでの自身のスペシャルに引き続き、本作でネットフリックス・デビューを飾る。
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