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日刊サイゾー トップ  > 源頼朝と「裏切り者」畠山重忠

頼朝を勝利に導いた男・上総広常と「裏切り者」畠山重忠、それぞれの頼朝との関係

北条・三浦にとって「裏切り者」の畠山重忠だが…

頼朝を勝利に導いた男・上総広常と「裏切り者」畠山重忠、それぞれの頼朝との関係の画像2
畠山重忠(中川大志)|ドラマ公式サイトより

 武将同士の人間関係の悪化といえば、畠山重忠(中川大志さん)が先週放送された第6回で、微妙な立ち位置に追い込まれたことが気になる読者も多いと思われます。これもネタばれになってしまいますが、「武士道などこの時代にはなかった」とよくわかる逸話なので、少しお話してみましょう。

 ドラマでは、北条義時が三浦義村(山本耕史さん)と再会した際、「(畠山重忠が)裏切りやがった」と三浦に言われても、旧友の裏切りに対して複雑な表情を見せはしたものの、特に追及するような態度は見せませんでした。そういう時代だと思って、諦めるしかなかったのでしょうね。

 しかし、畠山重忠によって三浦一族が立てこもっていた衣笠城が落とされたことを一同が知る場面では、ドラマ随一の「脳筋キャラ(=脳みそまで筋肉できているような、直情的なキャラ)」の和田義盛(横田栄司さん)だけは「俺は大庭が許せねぇ。伊東も畠山も許せねぇ」などと怒りをあらわにしました(和田家は、三浦一族の庶流です)。あれが頼朝軍の一同の本音だったとは思います。

 なお、畠山重忠の一行と出くわした時の三浦の一党が、「会わなかったことにいたしましょう」と背を向け、退却する畠山に矢を射かけるという失礼なことをしていましたよね。あれは史実では和田義盛ではなく、彼の弟の義茂のしわざだったようです。義茂はドラマには出てきていない様子ですが。

 問題の畠山重忠については、彼の宗家にあたる秩父家が平家を支持していたため、彼らの命に従い、源氏方の三浦一族とは対立せざるをえなかった(とも釈明しうる)わけなのですが、頼朝軍の快進撃を知るや、彼は「平氏は一旦の恩、佐殿(頼朝)は重代相伝の君なり(『源平盛衰記』)」などと発言、源氏方にあっさり鞍替えしています。

 本来であれば裏切り者であり、処罰対象とされるべき畠山なのですが、慢性的な人手不足の頼朝軍は彼を受け入れています。このころ急速に頼朝の勢力が増していったのは、負けた武将たちをほとんど処刑したりせず、このように自軍に組み込んだからです。

 和田義盛をはじめとする三浦一族としては、なかなか気持ちがついてこないところはあったでしょうが、しかし畠山はよくもまぁ平然と態度を翻せたものですね。あっぱれな割り切り方というか……。

 興味深いのは、畠山重忠はこういう裏切りもシレッと行える人物だったのに、その後の生き方で評価されたという面もあるのでしょうが、史書や創作物の中で“清廉潔白の士”とか“源氏の良心”とされる人物として描かれるようになっていったことです。

 そういう畠山役に、2019年の朝ドラ『なつぞら』で不思議な空気を醸し出していた「いっきゅうさん」こと坂場一久役でブレイクした中川大志さんをキャスティングしたのは非常に巧みだったと思います。中川さんの出番はまだ多くはないけれど、生真面目そうでいて何だか読めない部分も垣間見え、しかしこういう畠山のキャラなら、あっさりと態度を変えてもなんとなく許されてしまうのかな、と感じられる気もしますよね。

 残念ながら、史実の畠山の人柄を知りうる資料はほとんどないのですが、梶原景時の場合、頼朝に誠意を尽くしながらも、創作物などで人の悪口を言って成り上がる“フレネミー(=友達のフリをしているだけの実は敵)”のキャラにされがちなことを考えると、愛されキャラの畠山とはいったい何が違ったのか……と考えさせられてしまう筆者でした。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 12:40
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