『真・事故物件/本当に怖い住民たち』海外ホラーイズムを感じる奇妙な映画体験
#映画 #ホラー #真・事故物件
身近な恐怖の先にある、想像を絶するカオスな展開!!
正直、「また事故物件ものか」……と思ったホラー映画ファンも多いかもしれない。それもそのはずで、先述のように便乗したタイトルの類似映画は後を絶たない。ただ、『真・事故物件/本当に怖い住民たち』は、それらの作品とは全く異なっている。観終わった後では、先発作品に似たタイトルをつけたのもわざとでは、と思えてくるのだ。
実際にYouTubeチャンネルを持っている女優たちをキャスティングしていているものポイントだろう。リアリティが段違いなのだ。また、RaMuが島田秀平に放ったセリフ──「以前は手相を見られていましたね」──には、メタ的な視点も入っていてニヤリとしてしまった。
ストーリーは、YouTuberとアイドルが事故物件に行くことになるという入り口から始まる。芸人やグラビアアイドル×心霊スポットなど、最近の日本ホラーに多い設定だ。
しかし今作は、いわゆる「田舎ホラー」ジャンルにも属している。『悪魔のいけにえ』(1974)、『サランドラ』(77)、『クライモリ』(03)、最近では『ミッドサマー』(20)のように、見知らぬ地に足を踏み入れたときの恐怖が描かれている。
また絶妙なのが、舞台設定だ。清水崇監督の「村」シリーズのように、日本特有の集落や山などの極端な田舎ではなくて、ある町の駅から少し離れたようなボロアパート。リアリティがありつつ、独特の雰囲気が醸し出されている。
ボロアパートには、前の住人が残していったものや、ふすまの汚れ、嫌な物音、変な住人……虫もいればなお良かったが、身近にある怖さを感じさせる要素が強調されていて、普通に「古い物件怖い! ボロアパート怖い!」と思ってしまう。
私たちから決して遠くはない場所への「なんだかわからないけど怖そう」という恐怖と、スプラッターの結合。実はこの恐怖は、無差別的な犯罪に遭遇する恐れにも近く、リアルとファンタジーの間にあるものなのだ。
「血塗れの美学」は誰の手に!?
長編デビュー作『星に願いを』(19)が映倫検閲に引っかかった佐々木勝己監督による最新作ともあって、儀式のために人間を殺していき、その過程で人体を解体していく、コンプライアンスが心配になるようなショッキングなシーンも多い。海外ホラーをリスペクトし、それを日本の規制の中でどう表現しようかといった、試行錯誤も伝わってくる。
スプラッターホラーには、「血塗れの美学」というものがある。ヒロインが血塗れ、あるいは汚物に塗れながら、殺人鬼を撃退するシーンのことだ。筆者が今作を日本版『悪魔のいけにえ』と思ったのも、そんな美しいシーンがあるからだ。今回、その映えある役割が誰に与えられているかは、ぜひ映画を観て確認してもらいたい。
さらに、ラストの演出はタランティーノ的(あるいは、佐々木監督のことだから、タランティーノの着想元であるグラインドハウスやイタリアン・ホラーからかもしれない)である。ホラーだけではなく、海外映画へのリスペクトをも表現されている。一方で、国内向けのプロットで表現しようとしているからこその難しさも感じてしまった。本当は、この熱量で、もっと激烈にやりたいこともあったのでは……。
決して万人受けするような作品ではない。理解に苦しむシーンがないとも言えない。だが、間違いなく言えることは、表現規制が多くますますぬるま湯化している現代の日本ホラー映画界において、とにかく突っ切った作品だということだ。
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『真・事故物件/本当に怖い住民たち』
●2022年2月18日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ他、全国ロードショー!
キャスト:海老野 心、小野健斗、小島みゆ、RaMu、渋江譲二、竹内花、とももともも、御法川イヴ、島田秀平(友情出演)、ほか
監督:佐々木勝己
企画・原案:角由紀子
制作プロダクション:シャイカー
配給:TOCANA
(C)TOCANA映画制作プロジェクト
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