『あらびき団』「深夜となんにも変わってなかったわ」 TBSのどうかしている時間概念
#あらびき団 #テレビ日記
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(2月6~12日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
東野幸治「『あらびき団』ってこんな番組でしたわ。深夜となんにも変わってなかったわ」
テレビは私たちの生活の時間を区切るものだった。
たとえば、朝ドラが終わったら家を出る。『笑っていいとも』を見ながら昼食をとる。そんなふうに、テレビ番組の放送時間は多くの視聴者の1日の生活時間と重なっていた。月9とか金曜ロードショーとか、曜日に紐づけられた番組のサイクルが、1週間の生活のサイクルと重なっていたりもした。
いや、「だった」と過去形で断じるのは言いすぎかもしれない。いまでも朝ドラの終わりが出勤の合図の人もそれなりにいるだろうし、水曜日になると『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の放送を心待ちにする人もいるはずだ。番組の放送時間と放送内容は、まだゆるやかに重なっているようにも思える。
けれど、メディア全体のなかでテレビが占める割合も相対的に下がってきたと言われるなかで、テレビと生活時間との結びつきはずいぶん解かれてきているはずだ。録画や見逃し配信での視聴が広がるなかで、テレビを比較的よく見る人でも決まった時間に決まった番組を見ることは減っているだろう。そもそも、人によってライフスタイルがバラバラで、生活時間についての世間的な統一感はもはやあまりない。放送時間と生活時間の周期は、もはや必ずしも一致しない。
そんななかにあって、12日の『あらびき団ゴールデンSP』(TBS系)である。2007年から2011年までのあいだ、レギュラーで深夜帯に放送されていたこの番組。その後も不定期に復活スペシャルなどがお送りされてきたが、このたび、番組スタートから約15年にして初のゴールデンタイムでの放送となった。
念のために説明しておくと、『あらびき団』はネタ番組である。ただ、「あらびき」の名のとおり、そこで披露されるのは、おもに芸人たちの荒削りなパフォーマンスだ。テレビの放送水準に達しているとは思えないようなもの。毒々しいもの。苦味のあるもの。そういったパフォーマンスを、MCの東野幸治、藤井隆の裏笑い的なツッコミで笑いにしていく。「クセがスゴい」といったキャッチーなフレーズでは決して処理できないネタの番組、と言えるかもしれない。
そんな『あらびき団』がゴールデンタイムに放送された。もしかすると様変わりしてしまうのではないか。そういった不安もあったが、実際に放送されてみると、人気芸人がそれなりに出演する点などにゴールデン仕様を感じつつも、雰囲気自体は深夜時代からあまり変わっていなかった。番組の変わらないスタンスを宣言するかのように、1組目から世間にほぼ知られていない芸人の荒々しいネタを放送。東野は確認するように言った。
「いやいや『あらびき団』ってこんな番組でしたわ。深夜となんにも変わってなかったわ」
芸人たちのネタだけでない。パフォーマーの舞台裏を見せたり、ミスったときの気まずい顔を映したりといった、VTRの編集の悪意もいつもどおりだ。
もちろん、東野のコメントも通常営業である。パフォーマーの芸にツッコむだけでなく、これに笑っているスタッフや自分たちMC、視聴者もふくめた全体を俯瞰的に解説し、裏笑いにもっていく。番組内で悪意が尖りすぎることもあるが、そんなときはこれまた例のごとく藤井が持ち前の解毒機能を発揮。そっと添えるひと言と笑顔で、毒の香りを残しつつ毒素だけを抜いてしまう。
「見終わったあとの脱力感。この感じ『あらびき団』でした」
今回の特別ゲスト、菅野美穂はすべてのパフォーマンスを見終わったあとにそう言った。深夜の雰囲気のまま、脱力感を残して終わったゴールデン版『あらびき団』。番組の終了時刻は深夜1時ではなくまだ夜9時だ。放送時間と生活時間の周期の不一致。あるいは撹乱。そして、そんな番組もまた、見逃し配信で朝とか昼間とか、放送時間に関係なく視聴者の生活時間にあわせて見られたりするのである。
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