『ウエスト・サイド・ストーリー』極上の出来栄えと、残された問題
#ウエスト・サイド・ストーリー
2022年2月11日より、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』が公開される。本作は第79回ゴールデングローブ賞で作品賞・主演女優賞・助演女優賞の最多3冠に輝き、第94回アカデミー賞(授賞式は3月27日)では作品賞他7部門にノミネートされるなど、絶賛で迎えられている。
事実、この映画『ウエスト・サイド・ストーリー』本編は、掛け値なしに素晴らしい。ミュージカル映画史上最高レベルの歌とダンス、差別や偏見を越えた禁断の愛の物語は、スクリーンで堪能する価値が間違いなくある。
だが、後述する「主演俳優の問題」が本作にはある。ご存じないという方は、知らないまま観てみてもいいだろう。だが、この問題はエンターテインメントの今後のためにも考えておくべきものでもあるので、観た後には調べて知ってほしいと願う。
そして、その主演俳優の問題を知った上で映画本編を観ると、改めて看過することができない、強い禍根を残すものであると強く思ったのだ。まずは作品の特徴や魅力を記してから、その問題についても論じていこう。
原作が与えた影響と、アップデートされたミュージカル
1957年に初演を迎えたブロードウェイ・ミュージカル「ウエストサイド物語」は革新的な作品だった。「Tonight」や「Somewhere」などの不朽の名曲は時代を超えて愛され、画期的なダンスはマイケル・ジャクソンにも影響を与えており、『今夜はビート・イット』のミュージックビデオはその「再現」とも言える内容だ。日本でも、歌って踊るジャニーズアイドルが生まれるきっかけにもなっている。
また、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に着想を得ながらも、当時のニューヨークの社会的背景、特に移民が増える中で問題となる人種差別や貧困も描かれてることも重要だ。
「楽しさ」を提供する当時のブロードウェイでは異質となるシビアなテーマや物語もまたミュージカルの歴史を変え、『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』のように悲劇的な要素が強い作品や、『コーラスライン』や『ハミルトン』など多様性を訴えた名作の原点になったと言える。 2021年に映画化されたばかりの『イン・ザ・ハイツ』もそのひとつだろう。
あらすじはこうだ。多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイドでは、貧困や差別に不満を募らせた若者たちのチームの対立が激化していた。 ある日、プエルトリコ系移民で構成された「シャークス」のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民「ジェッツ」の元リーダーのトニーと出会い、惹かれあうことになる。
今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』の基本的な物語の流れは、1961年製作の映画版との違いはほとんどない。だが、世界でもっとも有名な映画監督スティーブン・スピルバーグが初めて手がけたミュージカル映画にして、その手腕が見事に冴え渡っていること、ダンスを含めた映像がアップデートされていることが重要だろう。何しろ、大胆なカメラワークや編集で演出されたダンスシーンはとてつもなくエネルギッシュ。世界トップクラスの精鋭が揃ったことで生まれた、ミュージカルシーンのひとつひとつが「極上」と言える完成度だ。
例えば、アップテンポでキャッチーなダンスナンバー「America」は、異なる場所で育った人々が集うアメリカというその場所の希望を歌った楽曲だ。劇中で移民への差別や偏見が容赦なく描かれるからこそ、大人数で表現するそのダンスシーンで「高らかに歌う」ことに感動がある。一方で、物語は次第に悲劇的な方向へと突き進んで行く。その明るいミュージカルの雰囲気および歌詞とのギャップもあるからこそ、より大きく感情を揺さぶられるようになっているのだ。
言うまでもなく、劇中の差別や偏見への抵抗、そして多様性を訴える物語は、現代でも全く古びていない。それどころか、コロナ禍や他の様々な要因で「分断」がある現代でも、強い普遍性を持っているとも言えるだろう。ひたすらに素晴らしい出来栄えのミュージカルと、シビアだからこそ強く感情を揺さぶる物語が合わさってこその映画体験を、劇場で堪能してほしいと願うばかりだ。
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