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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > バレンタインだから観たい『花束みたいな恋をした』
宮下かな子と観るキネマのスタアたち30話

バレンタインだから観たい『花束みたいな恋をした』パートナーと人生を歩む意味

生活の変化で変わる関係性を見せる菅田将暉の息づかい

 同棲生活をスタートした2人でしたが、現実は好きなことだけで生きていけるほど甘くはない。金銭面に余裕がなくなった2人の生活に、クリエイター志望だった麦は夢を捨て、就活を始め仕事に就くと、カルチャーからどんどん遠ざかっていきます。時間がないという物理的なものだけではない。「(本を読んでも)感じないかもしれない」「パズトラしかやる気しない」と、気力さえ消耗するような仕事に日々を追われ、心にも変化が生じているのです。将来のことなど具体的に考えていなかった大学生の頃の麦と、社会人として仕事をするようになった麦の変化は、髪型や服装、台詞からだけではなく、瞳の強さや雰囲気そのものから感じられます。菅田さんのちょっとした息遣い、台詞の速度、自然体のお芝居は本当に惹きつけられます。

 変わっていく麦を心配する絹。たしかに、好きな小説の話ができた好きな人が、ビジネス書を手に取っている姿を見たら、どんなに切ない気持ちになるか。本棚で区切られた部屋は、次第に麦と絹を隔てていき、本とゲームに囲まれたリビングにいる絹に背を向けて、麦は机にかじり付くことが増えていく。カルチャーが結びつけた2人が、カルチャーの壁を挟んで距離が遠ざかっていくことが分かるこの演出も見事です。

 また、麦と絹は趣味嗜好が合っていたかもしれないけれど、お互いの将来や自分自身について語ることはあまりないんですよね。もしかしたらこれが、恋愛で終わるか、その先の結婚へと進むかの大きな差なのかもしれません。パートナーと共に人生を歩むとはどういうことなのか、ということまで考えさせられます。これぞ真の恋愛映画。

「普通に生きるって難しい」。

 本作でもそうナレーションがあるように、これまでの作品でも、〝生きづらい人々〟〝普通という概念に疑問を抱きながら生きている人々〟に目を向けてきた坂本裕二さんの脚本。本作では、好きなものが共有できる喜びや、そこから発展する恋愛模様を、ヒリヒリするような距離感や台詞で綴りながらも、それだけでは生きられない厳しい現実をも突きつけています。

 菅田将暉さん有村架純さん演じる麦と絹の、どこまでも〝普通〟な主人公の姿には、今の時代を生きる観客が自分自身と重ね合わせてしまう共感性を持っています。そんな2人の5年間の変化を、カルチャー駆使した見事な脚本と演出で描かれた傑作です。今回は〝カルチャー〟をメインにお話しましたが、本作はさまざまな角度から楽しめる作品ですのでまだまだ語りたりないし、観るたびに発見がある作品です。皆さんのご意見も伺えたら嬉しいです。是非ご覧ください。

宮下かな子(俳優)

1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

みやしたかなこ

最終更新:2023/02/22 11:32
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