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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 日本語ラップが迎えた新時代と裏面史
新連載「クリティカル・クリティーク VOL.0」初の著書『わたしはラップをやることに決めた』発売記念

渡辺志保×つやちゃん「私の中ではAwich以降」日本語ラップが迎えた新時代と裏面史

リアルを守る美しさと 心を開く多様性の享受

渡辺志保×つやちゃん「私の中ではAwich以降」日本語ラップが迎えた新時代と裏面史の画像5
200以上の作品でまとめられたディスクレビュー。当時聴いていた(受け止めていた)感覚とは異なる質感で読むことができる

渡辺 書き終えて新たに気づいたことはありましたか?

つやちゃん 本書のインタビューで、COMA-CHIさんに「B-GIRLイズム」(09年)のリリックをアップデートできるなら書き換えたいですか? という質問をしたのですが、そこで彼女は「書き直さないです。というのも、わたしにとって『B-GIRLイズム』はヒップホップだけのイズムじゃないんですよね。自分の軸を貫いてやりたいことを追求していこうよ(中略)というメッセージであって、それはヒップホップに限らない」と答えているんですね。この言葉は、私が書籍を作っていく過程で漠然と感じていたことが明文化された瞬間でした。男性が「これがラップだ!」「これぞヒップホップだ!」という気持ちで歴史を築き上げてきた一方で、女性はなかなかその核の部分へは近寄れなかった。でも、女性はポップミュージックとつながりながら、ラップの面白さやヒップホップの魅力を広い定義で捉えられていたんだろうなと思います。

COMA-CHI「B-GIRLイズム」

渡辺 あれもこれも好きで、ヒップホップも好き。

つやちゃん 両方あって然るべきで、それこそ現代における多様性なんじゃないかなと感じています。

渡辺 私は裏方という内側にいながら排他的な態度を取っていて、「知らない人間には入ってきてほしくない」という思いを抱く書き手であり、リスナーでした。それが閉鎖的でよくないと思いつつも、自分が守ってきたものは確実にあると信じていて。そうした意固地ながらもリアルを守り続けてきた美しさもあれば、そんな態度を改めて、多様性を享受する方法もある。実は、この数年の私自身のテーマでもあり、その感覚を慌ただしく繰り返している毎日だったりします。

つやちゃん その考え方も、文化を守る意味では非常に大切ですよね。どちらの考え方も存在して然るべきです。双方が常にシーソーゲームのようにせめぎ合っている状況こそが、ヒップホップの面白さなんじゃないかなと。

渡辺 そうしたなかで、“わたしはラップをやることに決めた”女性アーティストが、どう活躍していくかが非常に興味深いというわけですね。確かに日本語ラップの歴史において、ウィキペディアに掲載されている内容ですら、女性はほぼいないことになっていることに対する憤りはあります。そこには同性としての虚しさも覚えますし。

つやちゃん ヒップホップにおける女性の問題って定期的に話題になるじゃないですか。で、そのたびにみんな喧嘩している。そういった状況で、どうすればフィメールラッパーに正当な評価を与えることができるんだろう、というのは本当に真剣に考えました。正直、「男性ラッパーたちはヒップホップ史においてこんなに女性蔑視をしてきた」「その証拠にこのリリックにはこう書いてあって~」というようなアプローチの書籍も書けたかと思います。でも、今それをやって状況が改善するとは思えなかった。分断を煽るだけじゃないかと。そのあたりのスタンスについては本書の前書きに詳しく記しましたが、基本的に、女性蔑視やフェミニズムを問題にした内容は実は本書ではあまり書いていません。「“空気”としてのフィメールラッパー」というコラムにちょっとだけ記したくらい。それよりも、まずは「こんな良い作品を残していた」という事実を並べることが先じゃないかと。社会的イデオロギーを論じる誘惑から逃れて、ただただ音楽の魅力を記すことは非常に難しくもあります。けれども、本書ではそれを貫きたかった。

渡辺 はい。この本の根本的なとこでろでもあると思うのですが、「そこに彼女たちがいた、彼女たちの言葉がラップとして世に放たれていた」ということを真っ直ぐに伝えていくことが大切だと感じています。今回の著書は、過去の排他的な側面も含め、私自身の考えも見直すきっかけになりました。心からありがとうございましたという気持ちです。

 最後に、つやちゃんさんが著書をきっかけに日刊サイゾーで連載「つやちゃん’s クリティカル・クリティーク」が始まると聞いていますが、どんな内容の連載になるのでしょうか?

つやちゃん 著書のテーマでもあるフィメールラッパーはもちろん、ヒップホップというジャンルにとらわれない“女性ライマー”として紹介できるようなアーティストや楽曲を中心に取り上げていく連載になると思います。ぜひ、楽しんでもらえたら幸いです!

[つやちゃんプロフィール]
文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心とした、独自の視点から執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、宇多田ヒカルなど著名アーティストのインタビューも。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。
Twitter: @https://twitter.com/shadow0918

渡辺志保(音楽ライター/ラジオ・パーソナリティ)

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1984年、広島県生まれ。ヒップホップを主とした音楽ライター/ラジオ・パーソナリティ。国内外を問わずアーティストのインタビューやライナーノーツを手がけ、block.fm『INSIDE OUT』やbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM101』のメインパーソナリティを務める。

Twitter:@shiho_wk

Instagram:@shiho_watanabe

わたなべしほ

佐藤公郎(月刊サイゾー編集部)

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『GROOVE』『LUIRE』(共にリットーミュージック)、『blast』(シンコーミュージック)、『FLOOR net』(FACTRY)などの音楽誌の編集を経て、現在は『月刊サイゾー』編集部勤務。主に音楽企画を担当。昨年末からスタートした音楽ライター・小林雅明/渡辺志保両氏がパーソナリティを務めるポッドキャスト〈サイゾー:Talk About Hip Hop〉の制作も担当。

Twitter:@56dtp

さとうこうろう

最終更新:2022/02/07 20:00
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